- 538 名前:ブラボー 1 投稿日:04/01/19 17:40 ID:ITiJdlFm
- この家に来てからまだ日も浅いのですが、皆さんが快く受け入れてくれたおかげで、すっかり馴染むことができました。
働くことの喜びは言葉では表現できないほど満足できるもので、先輩方にはその気持ちを忘れないようにと言われました。
まだ僕には奥の奥に眠り込む寂しさはわかりません。でも、今が謳歌すべき時期であることはわかります。自分の存在意義を証明する唯一無二の機会を、十二分に与えられるわけですから。
一日一日を大切に、これからも誇りを持って職務を全うしたいと思います。
あ、申し遅れました。僕は御主人様――水原家の御息女、暦様に仕えておりますブラジャーです。以後お見知りおきください。
ことのついでに僕の紹介をさせてもらいますと、日本生まれの日本育ち、オーソドックスな形の白のシルク製といったところです。ええ、それだけなんですが……まあ、これといった特徴がないのが特徴です。黒のラバー製の方が良かったですか?
え、大きさ? ……ごめんなさい。守秘義務があるので、ちょっとお答えできません。お堅いと言われても、これは僕のプライド、ひいては存在意義に直結していることでもありますし……ただ、さっきも
言ったように、僕は最近ここに来たんです。と、いうことは……わかりますよね? 今の御主人様のサイズが大きくなられたということです。健やかなご成長、お慶び申し上げます。
あ、でも、御主人様は少し気になされていたようですね。だって、ほら、胸のサイズに比例してお腹のサイズも……あ……これも守秘義務でした……すいません。
- 539 名前:ブラボー 2 投稿日:04/01/19 17:41 ID:???
- ――と、どうやら仕事の時間のようですね。タンスの外でガトゴト・ガサゴソと音がしてます。僕以外にもブラジャーの先輩はいますが、周期を計算すると十中八九、僕の出番です。
軽い緊張感が身体に満ちてきます。この感覚、嫌いじゃありません。僕が僕として生まれたことを実感できる瞬間が近づいてくるのですから。
あ、開いた! 明るい光が射し込んで、冷たい空気が流れ込みます。外の世界が僕を待ってる! よーし、今日も精一杯頑張らせていただきますよ、御主人様!
………………。
……えーと。
誰ですか、あなた。
いや、僕を取り上げて「うひょー、でけー」とか言ってる場合じゃなくて。
ホント、誰でしょう。御主人様以外で僕に触れたことのある人は、洗濯なさってくれる母上くらいですよ。今タンスから出てきたばかりの僕を洗うわけではないでしょう。
あ…もしかして、変態さん?
世の中には僕らを盗んでイケナイことに使う人がいるそうですが、この人がそうなんでしょうか。…うーん、でも女の人が女の人の下着を盗むわけないですしね。
見た感じでは御主人様と同じぐらいの年――もっと若いかな?――に見えます。では妹さんなんでしょうか。お姉様の下着を借りたいという用件で……いや、それはないですね。だって
この人が僕を身につけたら、広々とした空間ができること間違い無しです。間にハムスターでも飼いたいなら別ですが、ハムスターもあばらがゴリゴリして住みづらいでしょう。
- 541 名前:ブラボー 3 投稿日:04/01/19 17:41 ID:???
- あ! 今、頭のフィラメントが光りました。
ほら、あれです。女の子が幼少時、お母さんの化粧を使っておめかしすることがあるでしょう。大人への憧れが生んだ微笑ましい光景というやつです。
この方は御主人様の成熟した魅力を羨望して、僕を手に取ったのではないでしょうか。するとやっぱり身につけるつもりなんですね。
まあ、たまにはこういう仕事があってもいいかな、なんて思います。不謹慎だなんて言わないでください。ちゃんとプライドはあります。ずっと御主人様に仕えるつもりでしたし、
その気持ちは今も変わりませんが、一人の少女に夢と希望を与えることにバチは当たらないでしょう。
もしかしたら、この子にとっては叶わない望みなのかもしれません。だからこそ今は僕を身につけ、束の間の幸福に浸ってくれることを願ってやまないのです。
さあどうぞ、お嬢様。遠慮などなさらず、その大草原の小さな胸に、僕をメロンパンの皮のようにお被せなさい!
……て、あれ?
彼女は僕をタンスの脇に置くと、いそいそと服を脱ぐかと思いきや、またゴソゴソと中を漁っています。やはり身分不相応だと悟られたのでしょうか。
お目当ての物は、どうやら僕の相方の一人であります白のパンティーですね。僕と同じ新人さんです。その彼を、両手で広げてはしげしげと眺めてます。
うーん、この人の意図がどうもよく分かりません。Tバックやスケスケのものならまだしも、何の変哲もない種のものですよ。大人の気分を味わうには不向きです。白の無地なら
御自分のを身につけたらよいでしょう。
疑問は案外早く解けました。
彼女は広げた相方をそのまま――
ああ、なるほど、被るつもりだったんですね。納得、納得。って、うわあぁあ!!
- 542 名前:ブラボー 4 投稿日:04/01/19 17:42 ID:???
- ちょ、ちょっと待ってください。何やってんですか、あなた。
ありえない出来事です。僕の常識の範疇を完全に逸脱しています。
パンティーをマスクみたいに装着してるんですよ。うわ、本来足を通すところから満足げな瞳が覗いています。いたら嫌なレスラーがここに誕生しました。
前言撤回。この人、変態です。紛うことなき。誰かー! 助けてー!
……え、あの、僕を手に取ってどうするつもりなんですか、ねえ。
「よし、完璧だ」
ほっかむりみたいに被られちゃいました。二つのカップが角みたいに頭を飾って、より変態性に磨きがかかります。
彼女はもう有頂天で、「変身」とか「コンプリート」とか言ってますが、どうしましょう。ご丁寧にポーズまでつけてますし。
何だかブラジャーとしての自分を真っ向から否定された気分です。それは恐らく相方も同じでしょう。それに加えて、あれです、服は身体の一部と言われるでしょう。今回自分
たちが変態の一部になってしまったわけです。……ああ、こういうのを厄日って言うんでしょうか……。もういいから、気の済むまでやってください……そして早く帰ってくださ
い……僕たちは時が過ぎるのをただ待つのみです。
そんな諦観に浸っていると、突然部屋のドアが開きました。
「ともー、いるのかー? 玄関に靴が……」
御主人様! お帰りでしたか!
「おー、よみ」
僕を被った変態さんが颯爽と声を掛けます。え、顔見知り? ご友人なんですか?
「…………」
御主人様、一瞬何が起こっているのか理解できないようです。さもありなん。眼鏡は真っ白、顔は無表情。時間が凍り付いたように止まっています。が、一瞬後、
「ギャー!! 何やってんだ、おめー!!」
爆発的な反応を示しました。はい、僕もこんな風に使用されるとは思ってもみなかったです。
- 543 名前:ブラボー 5 投稿日:04/01/19 17:43 ID:???
- その後、壮絶な追いかけっこが始まりました。
部屋の中から飛び出して、水原邸の内部を二階一階の区別無く、縦横無尽に走り回る御主人様と変態さん。まさしく上を下への大騒ぎ。
「待てー! ブラジャー泥棒ー!!」
「フオオオオオ!」
――それにしても、これほどまでに取り乱された御主人様のお姿を見るのは初めてです。嘆かわしいと思う反面、何だか生き生きとしているように見えるのは気のせいでしょ
うか? お二方、実はとても仲がいいのかもしれませんね。
「おぉ、このフィット感ッ」
「殺す! ぜってー殺す!」」
それでもですね……
さしでがましいことを承知で申し上げますが、ご友人は選ばれた方が良いですよ、ホント。
アレは伝染するそうですし…。
頭の上に乗っかりながら、僕はそんな風に御主人様の行く末を案じるのでありました。
「戦わなければ生き残れないッ!」
「待てー!!」
〔ブラジャー泥棒、略してブラボー:完〕