- 477 名前:【如きさらぎ月】 投稿日:04/01/07 12:55 ID:???
- 夜通し空から惜しみなく降り続けた冬の風物は、近所のグラウンドをだだっ広い白のキャンバスへと変えてしまった。
その上を縦横無尽に走り回り、前衛的な模様を描いている白中紅一点。
私はコートのポケットに手を突っ込んで、マフラーに顔を埋めながら何とは無しにそれを眺めていた。
(全くホント、元気だ……)
ともは辺りがまるで自分の領地と言わんばかりに足跡を付けまくっている。
朝っぱらから『寒いねー、外行こっ』と、文脈的にも論理的にもよくわからない台詞で無理矢理引っ張り出されてしまったわけだが、元気に駆け回るともに対し、
私はこたつで丸くなるタイプだ。正直、早く帰りたい。そもそも何でこうして付き合ってやってるか、我ながら理解に苦しむ。
「よみ――」
「あー」
遠くから天に手を伸ばして呼びかける声に、身をすくませながらぞんざいに答える。
頭の中は既にベッドの中の温もりを夢想していた。
「おーい、よ――み――」
「あー」
早く帰って一眠りしたい。こたつでゴロゴロするのもいい。
- 478 名前:【如きさらぎ月】 投稿日:04/01/07 12:56 ID:???
- ぽこっ
「む?」
藍色のコートに白のマークが付いている。
いや、白い弾痕というべきか。
目の焦点を前方に合わせると、次弾を装填しているともの姿。
「おい、やめ…」
ぽこっ
言い終わらぬ内にコートと同じ紋様が額に生じた。
「こいつッ」
白い大地を蹴って、私は猛然とダッシュする。
ともはそれを予測してたかのように、もう背を向けて走り出していた。
甘く見るな!
身体能力じゃ私の方が一段上だ。その程度の距離、追いつけないと思ったか?
お前の背中、どんどん近くなってくぞ。
もうすぐ手が、ほら、届く!
- 479 名前:【如きさらぎ月】 投稿日:04/01/07 12:56 ID:???
- ぼすっっ
肩をつかんだ瞬間、標的が身をひねったので、もつれあったまま転げてしまった。
相対位置がめまぐるしく変化するが、それでもきっちりマウントポジションはキープする。完全完璧に押さえ込んだ。
(さーて、どうしてくれようか)
馬乗りになったまま私は思案する。
結局またこいつのペースに乗せられてしまった。熱の籠もった内側が汗ばんで、厚着の服が煩わしくなってる。全身の細胞は背伸びして、すっかり目覚めてしまってる。ゴロ寝するはずの休日はもうないわけだ。
別に恨む必要もないが、なんか悔しいじゃないか。どうかしてやらないと気が済まない。
密度を増した白い息が私とともの間に断続的に割り込んでいた。
「へへ、つかまちゃった」
何で笑ってる? これからお仕置きタイムなんだぞ?
「えへへ…」
上気した紅い顔に白い歯を見せて、ともはこちらに両手を伸ばす。目はキラキラと朝日に輝いて、私の顔を映していた。
強い、引力。引き寄せられる。
気づけば顔はゼロ距離間近。
(何だよ、これじゃまるで)
「よみ……」
「……ん…」
――捕まったのは私。
fin.