334 名前:タイトル未定1 投稿日:03/12/18 14:18 ID:???

落ち着いて考えよう。
なぜ、こんなことになったのか。
結果には必ず原因がある。
原因には必ず理由がある。
こんなことになっているのにも、必ず理由があるはずだ。
そうだ、落ち着いて考えよう。


335 名前:タイトル未定2 投稿日:03/12/18 14:19 ID:???
「「「「「「かんぱーーい」」」」」」
六つの声がアパートの一室でシンクロ・エコーする。
冬の凍てつく空気は夜気を伴って一層寒さを増していたが、
この空間には少女たちの朗らかなエネルギーが陽気となって満ちていた。
高校時代の級友であった六人は、
今回メンバーの一人であるかおりんへの祝賀パーティーとして、こうして一堂に会したのである。
かおりんは、彼女らの中で唯一浪人となってしまったのだが、
苦節一年、ようやく第一志望に合格することができたのだった。

「でもまさか榊ちゃんと同じとこに入るとはなー」
トラブルメーカーの智がコーラをあおりながら言う。
「あそこ、けっこー難しいんだろ?」
相変わらずボサボサ髪の神楽が隣の長身の少女に尋ねた。
「……そうでもない」
と、こちらも寡黙なのは相変わらずの榊が答える。
「榊、謙遜してるのか、けなしてるのかわからないぞ」
さりげなくツッこむ暦こと「よみ」。
玄人はだしの的確なそれは健在だ。履歴書に書けないのが惜しい。
「でも、榊さんと一緒になれて嬉しいです!」
このお祝い会の中心、かおりんが少女漫画ばりのキラキラ目で榊の方を向く。
他にアイデンティティーがないとはいえ、変わらず榊さんラブだ。
「私たちも今一緒やでー」
と、これはのほほんとした口調の大阪。
やっぱりどこかズレている。
皆、何も変わっていない。高校時代に戻ったようだ、と誰もが何とはなしに思った。
何も成長していないとも言えるが。

336 名前:タイトル未定3 投稿日:03/12/18 14:20 ID:???

楽しい時は瞬く間に過ぎて。
六人はこれまで離れていた時を感じさせないほど、高校時代以上に打ち解けあっていた。
「しーさーやいーびーみー!」
「あははー何それー」
「あははっははー」
大阪・かおりん・智が他愛のない話ではしゃいでいる。
暦・神楽・榊は少し落ち着いた感じで談笑していた。
「ちよちゃんも来れたら良かったのにな」
ふと、神楽が少しさみしそうに言う。
「ま、しかたないさ。アメリカで頑張ってるんだ。ちよちゃんの分まで楽しもう」
そういう暦も一抹の寂しさを感じずにはいられない。
「…………」
黙ってそれを聞いている榊も同様だ。
少し雰囲気に陰りが差す。
「よーし! おとーさん、ちよちゃんの分まで飲んじゃうぞーっ!」
突然智が立ち上がり、コップを高々と掲げて威勢をあげた。それは感傷など一気に吹き飛ばす勢いで。
三人は苦笑する。智のこういうところが、助かる。
普段は全く以てウザイだけだが。いや、全く以て。

337 名前:タイトル未定4 投稿日:03/12/18 14:21 ID:???

「いやー楽しーなー。いーい気分だぜー」
「ほんまやー、この前ゆかり先生と一緒になった時以来やー」
「え、大阪、お前ゆかりちゃんにあったの?」
「夜中コンビニの帰りに会ったんやー」
何だかポケーっとしながら言うには、黒沢みなも、通称にゃもちゃんと一緒にいたゆかり先生に、あたかも某国がやるように拉致されたとのこと。
その後のことはなぜか記憶がなくなっているのだが、妙に気持ちよかったことは覚えているらしい。
「大丈夫? それ、ちょっとヤバくない?」
と、かおりん。
相手は女性だから大事に至ることはないだろうが、記憶がないというのがどうにも気がかりだ。
「大丈夫やー、起きたんは先生の部屋ん中やしー、榊ちゃんもおったしー」
「ええ! 榊さんが!?」
かおりんが目の色を変えて大阪に掴みかかる。
「あ、あんた、変なことしなかったでしょうねッ!!」
流石に憧れの君のことになると反応が速い。
つまり二人は同じ部屋で一夜を共にしたことになるわけだ。
「本当なのか、榊?」
暦が横を向くと、彼女は赤くなってうつむいている。どうやら事実らしい。
「まぁ、どうせ行き遅れてヤケ酒飲んでた二人に絡まれたってとこだろ?」
頷く長身長髪の少女。
「でも……それだけじゃない……」
「へ?」
とつとつとして語るには、連れ込まれた先でムリヤリ酒を勧められ、意識がなくなるまで飲ませられたとのことだ。
初めは黒沢先生も止めようとしていたそうだが、かつて夏の別荘でやったように自ら飲んで自滅したらしい。
結局教師二人で元生徒にくだを巻きつつ、アルコールを注入。これが事の次第だそうだ。

338 名前:タイトル未定5 投稿日:03/12/18 14:22 ID:???
「なんつー教師だ」
暦は嘆息する。ゆかり先生はともかく、黒沢先生まで。
いくら未来がないとはいえ、未成年に酒はまずいだろ、職業柄。
「それで……目が覚めたら頭が痛くて……」
(二日酔いか)
「……裸だった」

ウーロン茶が某プロレスラーのごとく暦の口から噴射される。グレート。

「おー! ついによみが破裂したぞー! 太りすぎだー!」
智がやんややんやとはしゃぎまくる。
後で必ずぶっ殺死、と固く誓い、まずは詳細を尋ねた。
「い、一体、ゴホッ、何が、あったんだ?」
女同士だ。間違いは起こりようがない。そう考えたい。だが、なぜに裸。
「よく、わからない……何となく覚えて……思い出せそうなんだけど……」
赤い顔がさらに紅潮する。
なんだか本気で『一夜を共にする』の意味合いが違ってきそうだ。
「(榊、恥ずかしがってんなー……あー、私もなんか頭クラクラしてきた)」
天を仰ぎ、辺りを見渡す。
(……あれ?)
ふと、状況の異様さに気づいた。
智がやけにハイテンションだ。大阪がパンダのように垂れまくっている。
いや、これはいつも通りか。
しかし、神楽もかおりんも、口調が速くなったりどもったりで……皆、様子がおかしくなっている。
かく言う自分も……なぜ頭がフラフラするのだろう。なぜ視界がぼやけるのだろう。
そういえば、このウーロン茶……苦すぎないか?
どんな銘柄だ、と暦は源泉を確認する。

339 名前:タイトル未定6 投稿日:03/12/18 14:23 ID:???
「……なんだ、これは」
種種のペットボトル群の中央に、面妖な瓶が鎮座ましましている。
中身は空だ。蓋を開けて匂いを嗅ぐと……

「ッ! ともォーーッ!!」
 
瞬時に全てを察し、暦は叫んだ。
もう大分飲んだはずなのに、量のほとんど減ってないジュース類。瓶の刺激臭。皆のトリップな状態。
以上から何がなされたのか理解した。そして、こんなことをする奴は世界広しといえど、あのバカしかいない。
いつの間に、どうやって。それはわからないがとにかく、あいつは、あのヤローは…
全てを○○割りに変えやがった!

「あひゃひゃひゃひゃー、いいらないか、ぶれいこーぶれいこー」
既にできあがっている女バカ一代。
不覚……!
暦は歯噛みしたが、もう遅い。恐らく飲んでもわかりにくい、それでいてアルコール度数の高いものなのだろう。
五人の目をかいくぐってよくやれたもんだが、滝野智は人の嫌がることは一生懸命するタイプのスタンドだ。
そして、見事にミッション・コンプリートしやがったのだ。
よくやったぞ、スネーク。褒美は死だ。
348 名前:タイトル未定7 投稿日:03/12/19 12:27 ID:???
「みんな、それ以上飲むな! ともッ、あちこちついでまわるんじゃねぇッ! とにかく水だ! 大量の水を飲め!」
暦は持ち前のリーダーシップを発揮し事態の収拾を図った。
しかし、時既に遅く誰もが全身に狂水を巡らせており、聞いていないのか、聞いても動けないのか、その指示に従う者は一人としていない。
「うあぁ、どうすんだよー、これー?!」
人ごとではなく自分もかなりアルコールが回っている。立ち上がった足下がおぼつかない。
「えへへ〜、さかきさぁ〜ん」
かおりんが榊の腰に飛びついてきた。
「…………」
飛びつかれた少女は語りかけるように眼鏡の少女に視線を向ける。
「ん、ああ。ほら、かおりん、榊が困っているぞ」
暦はそれを助けを求めるものと解したのだが、
「……違う。思い出したんだ」
「は?」
突然、何だ?
言葉の意味が読み取れず、目をパチクリさせる。
「あの日、黒沢先生に教わったんだ……」
「?」
やっぱりわからない。
「……こういうことを」
榊はかおりんの首に手を回し、そして、
「え」
口づけた。

349 名前:タイトル未定8 投稿日:03/12/19 12:30 ID:???
「な、な、な」
何が起こったというのだろう。暦は一瞬自分の認識能力を疑ってしまう。
だが、それは厳然たる事実で。
「うわ……すげぇ」
神楽が思わず呟いた。
目の前で繰り広げられる耽美で、百合姉妹で、リリアンな光景。
それは周囲の視線に対して強い引力を持っていた。何せこんなディープなやつを生で見せられているのだ。
そう、それは女同士の戯れにしては少々過激すぎる様相を呈していた。
顔の角度を変えては何度も口を合わせ、ピチャピチャと粘質な水音を響かせている。
口内で何が行われているか想像するだけで、観客たちは赤面した。
かおりんは初めこそうっとりと幸せそうな顔をしていた。今まで幾度も夢見たことが今現実に。もう死んでもいい、とすら思っていた。
だが、様子が変化し始める。
苦しく甘い吐息が切羽つまったものになる。
すがりつくように背に回された手が服をグッとつかむようになり、それは時折大きく痙攣しさえした。
眉根を寄せて目をつむり、涙を浮かべたまつげを震わせる。そんなかおりんに対して、長身の少女は全く意に介した風もなく舌の動きを続ける。
そして、ついに、
「んっ、んぅううぅぅッ!」
榊に舌を絡め取られたまま、かおりんはくぐもった声を高くあげた。
当人のお望み通り、逝かされてしまったわけである。

350 名前:タイトル未定9 投稿日:03/12/19 12:31 ID:???
「こんな感じ……」
こんな感じ……って。
床に崩れ落ちてピクリとも動かない少女を傍目に見ながら、一同は榊の言葉に唖然とするしかない。
(く、黒沢先生……あんたなんば教えよっとですかーっ?)
思わず博多弁でツッこんでしまう暦。
キスだけで頂点を極めさせるなんてすごい技術……いや、そうじゃなくて。
混乱している頭に、ボソリと榊。
「もっと詳しく教える……」
「はい?」
何とも間抜けな声をあげてしまった。
もしかしてさっき以上のことがあるんですか? 今のだけで犯罪級なのに?
いや、それより。
栗色の長髪がぞくりとざわめく。榊は暦の方を向いて話している。
(私、ターゲット? ロック・オン状態? え、ウソ)
その推測が間違っていない証拠に、暦方向に足が踏み出される。これは小さな一歩だが、暦という人間にとっては大きな一歩だ。けだし名言。
「何があったか、知りたいって言った……」
いえ、もう十分です。お腹いっぱいです。ダイエット中です。
そう言おうとしたが、体がすくんで動かず声も出せない。まさに蛇ににらまれた蛙。
「や、やめろって、榊」
神楽が間に割って入るも、
「先にしてほしいのか……?」
獲物を見る餓狼の一視に、
「いえ、なんでもないですよ?」
あっさり引き下がる。
誰が神楽を責められようか。立場が同じなら暦でもそうするだろう。
依然として皿の上の彼女。もはや謝ることしかできなかった。
(お母さん、ごめんなさい。私、おいしく食べられちゃいます……)

366 名前:タイトル未定10 投稿日:03/12/22 14:52 ID:???
しかしその時、天の助けかバカの叫びか、
「いいろーっ、榊ちゅあーん! やれやれ〜ぇ! よみは食いでがあるろ〜」
この惨状の首謀者が煽りを入れた。怒りの炎が暦の心中で発火するが、それがきっかけとなったのか、瞬間的に金縛りが解けた。
暦、この時ばかりは智に感謝。感謝ついでにもう一つ役立ってもらうことにした。
「変わり身の術ッ!」
幼なじみのもとへダッシュし、襟首をむんずとひっつかむ。そして、思いっきり榊方向へ投げつけた。
「どちらかってーと、身代わりの術だな」
神楽がさりげなくツッこんだ。

367 名前:タイトル未定11 投稿日:03/12/22 14:53 ID:???
ブラックホールは光さえ吸い込む。
実際にその光景を見たことはなかったが、恐らくこのような感じだろう。
そう思わせるほど、きれいに智は取り込まれた。
「うわ」
「うわ」
暦と神楽は異口同音に感嘆と驚愕の入り混じった声をあげる。
そこで行われているのは、かおりんがされた以上のことで。
あれがやられていたのは自分たちかもしれないのだと考えて、二人は青ざめた。
まず榊は智の下あごと脇腹を優しく撫で、顔を上向かせることに成功すると、あっさりぬめる触手を口内に侵入させた。
それから右手は頭へ、左手は背中へ回し、また顔の角度を変えながら水音を立てる。
智はビクンと震えて一瞬抵抗するような素振りを見せるが、榊をつかんだ手は弱々しく、かえって接触を深めているとさえ見える。
ひとしきり愛でると、榊はゆっくりと智の中から退いていく。まるで誘うように。
この時点で智は陵辱者から逃れようという意識はつゆとなく、さらなる愛撫を乞い願うまでに陥落されていた。
だから、そこに磁力があるかのように智の舌は榊の舌に引き寄せられていく。
赤く濡れ光る榊の唇は鮮やかに開かれ、その中心には甘い蜜のような快楽がたたえられていて。
自分が食虫植物に飛び込んでいく虫であることを自覚しながら、智は深く深くそれを求めた。

368 名前:タイトル未定12 投稿日:03/12/22 14:54 ID:???
「…………」
「…………」
――――ハッ!
しばらくその光景に見入っていた彼女らだったが、ようやく我に返った。
顔を見合わせる。
「ど、どうする?」
「どうするって…」
目の前では濃厚なラヴ・シーンが展開されていた。智はすっかり忘我の境地で、ただただ与えられる快楽を享受している。
「逃げよう」
「ああ」
即決。智は手遅れ、かつ助ける価値がない。ここは自分の身を守ることを第一に考えねば。
それに――智の身体がビクビクと痙攣し始めている。もう終わりが近い。
このままここにいれば、すぐに自分たちも同様の運命を辿ることになるだろう。
生きる価値のある者は生きている者だけだ。今、無事なのは、三人だけ。
「大阪!」
神楽が叫ぶ。しかし、呼ばれた側は「ん〜、なんやぁ〜」と間延びした返事をするだけで。目は開いているが、夢うつつの状態だ。
「だめだ。あきらめようぜ」
一度きりの呼びかけで、神楽はきびすを返した。
「え、でも」
「じゃあ、大阪連れてこれるか?」
件の人物は榊と智を挟んで向こう側の壁に寄りかかっており、そこはドアの反対側だ。つまり助けるにはあの渦中に飛び込んでいかなくては……
「無理だ」
「だろ」
二人はさくっと友人を見捨てることにした。尊い犠牲を無駄にしないことを誓って。

369 名前:タイトル未定13 投稿日:03/12/22 14:55 ID:???
部屋を飛び出した二人は夜の廊下を駆けていた。
「――だけどいいのか」
暦は問いかける。今更ながらに罪悪感がこみ上げてきた。
しかし、一方で大阪を捕食している間に時間が稼げたら、という打算を働かせている自分もいて。
……そういう自分にまた良心が咎めてしまう。
心中を察し、または自分も同じ心境なのか、神楽が走りながら暦の背中に答える。
「心配ねえ! 気持ちの問題だ!」
「気持ち…」
「マインド!」
「マインド…」
ちなみに、mindは『心配する』という意味で、『Mind!』の訳は『心配しろ!』である。
「それに!」
「それに?」
「今の榊は榊じゃねえ……酒鬼(サカキ)だ!」
――何かよくわからんが、妙に合点がいった。
かおりんとのファーストコンタクトから榊の舌技のすさまじさがわかったが、それ以上に智とのセカンドインパクトが戦慄を覚えさせる。まさに鬼の所行だった。
あの時の智の顔……完全に心奪われていた。
ムリヤリされるだけならまだ犬に噛まれたものと割り切れるが、榊にかかると今までの価値観や人生観といったものが根こそぎもがれてしまう気がするのだ。
その予感は確信に近い。
暦は大きく身体を震わせた。
この瞬間にも後ろから肩をつかまれるかのような。そんな悪寒に襲われたのだ。
階段を下りる足は、自然速まった。

370 名前:タイトル未定14 投稿日:03/12/22 14:56 ID:???
暗い階段を落ちるように駆け下りながら、これまでのこと暦は思い返していた。
本当に、なんでこんなことに。
誰が原因だ?
あんなことを教えた黒沢先生?
黒沢先生を止めなかったゆかり先生?
酒を持ち込んだ智?
それともやっぱり榊?
だめだ。
原因も理由も大きな一つに絞れそうにない。
第一わかったところで、それが自分たちの貞操を守る術になるとは到底思えない。
では何でこんな無駄なことを思考したのだろう。
誰かに事の経緯を説明するためか? まさか。
暦は自嘲気味に反省したが、こういう時の人間は論理的な思考を完全に行うことができない方が当然である。
彼女のそこそこ明晰な頭脳も、今はニューロンがこんがらがってアヤトリ状態なわけだ。
今できることはただ一つ。三十六計なんとやら。 

371 名前:タイトル未定15 投稿日:03/12/22 14:57 ID:???
短くも永遠に感じられる時間を掛けて。
ようやく一階までたどりついた。
白い息が連続して暦の口から吐き出され、冬の外気に拡散してゆく。そこに彼女は大きくついた息を重ねた。
辺りは人通りが少なく誰もいないが、街灯が間近な一等星のようにあちこちで光っていて。
それが暦にほのかな安堵をともらせた。
「ここまでくれば大丈夫だろ、神ぐ…
ら。
その声は虚空に吸い込まれた。
後ろについてきたはずの友人がいない。あるのはシン、とした静寂のみ。
そんな馬鹿な。神楽の俊足は自分の一回り速い。遅れるなんてありえない。
と、フワリとした感触が背後から暦を包んだ。
腕。しなやかで、長い。
神楽… じゃない!
耳元で囁かれた。
「そうやって逃げてちゃいけない……」

391 名前:タイトル未定16 投稿日:03/12/24 11:54 ID:???
「あ、あ、あ」
開閉する口から意味をなさない言葉が、身体の震えとともに押し出される。
榊が後ろから腕ごと暦を身体を抱きかかえている光景は、端から見れば恋人を寒風から守り、暖めているような微笑ましいものに映るかもしれない。
けれど、実際は蛙に巻きついた蛇のそれで。
「ふふ」
獲物を捕らえた喜び、あるいは勝利の声を漏らす榊。
暦は何もできなかった。
神楽がどうなったか――状況上、一人で逃げたわけではないだろう。
つまり、榊は神楽の運動能力をものともせず、さらに暦が階段を下りきる短時間の内に籠絡完了したことになる。
それなら、自分に何ができるというのか。そして、何をされるというのか。
涙目で訴えるように顔を向けると、榊の顔が出迎える。
それを見て、暦は心臓を氷の手で鷲づかみにされる思いがした。
屈託のない爽やかな笑み。
目と口を円弧で表現できる榊。
怖 す ぎ る。
今世紀初頭にして最大の恐怖だ。
「も、もうやめよ? な?」
なけなしの気力を振り絞り、暦は哀願の言葉を紡いだ。
それに対し、にっこりと榊。
「大丈夫、まかせろ」
ナニヲデスカ――?!
心の叫びは、しかし、声にならなかった。

392 名前:タイトル未定17 投稿日:03/12/24 11:55 ID:???
おちつけ、大丈夫、問題ない。
暦は自分に言い聞かせる。
相手はキスを攻撃の主体とする肉食動物だ。
けれど、榊は背後にいる。自分は有利な位置にいるのだと認識したい。腕が使えないのは難点だが、口さえ守れば安全なのだ。右から来たら左、左から来たら右に顔をそらせばいい。
根気勝負だ。いつでも……来て欲しくないが……来い、サカキ!

むにょ。

「うひゃン」
予想外の攻撃に素っ頓狂な叫びをあげてしまった。
榊の両手が二つの膨らみに触れている。
豊かなその重みを確かめるように下から包んで。
(何、で……かおりんやともには、そんなこと…)
暦の悩乱をよそに、手の動きは徐々に、確実に段階をアップさせていった。
白い指が椀球の底部周辺を繰り返しなぞり、やがて全体を覆うようなタッチに移ると、強すぎず弱すぎず絶妙な圧力で責めてくる。
それは内なる燻りに快楽の酸素を送り込み、欲情の炎へと燃え立たせていった。
荒い吐息を噛み殺し、歯を食いしばって口を堅守していた暦だったが、山の頂にある突起をふいに摘まれ、「ひゃう」と思わずおとがいをあげてしまう。
(しまっ――)
「た」と思ったときには既に口を合わせられていて。
ヌルリとたやすく内部に侵入された。

〔引用文〕
「何が起きているか」
古今東西、失陥寸前の城塞で起きている事など、たった一ツッきりでしょう。
それは只只一方的な――

393 名前:タイトル未定18 投稿日:03/12/24 11:56 ID:???
熱さとか、柔らかさとか。
そういった感覚よりもまず先に来たのは白さで。
白い閃光。白濁する意識。
心のどこかで気を強く持ってさえいれば、と考えていた自分が如何に愚かかを思い知った。
逃げる暦の舌は完全にその先を読まれて、いとも簡単に絡め取られ、抵抗するいとますら与えられずにこすりたてられる。
その上、息継ぎの合間などに歯と歯茎、その境目、口蓋といった要所要所を可愛がられる。
比較するなら、先ほどの手技はまるで児戯。
鼻から子犬のような切なくも甘えた声が漏れる。足はガクガク震えて立っていられない。榊が優しく抱き留めてくれる。触ってくれる。優しく、激しく。身体が熱い。窮屈な姿勢がもどかしくて。もっと……
(だめ……堕ちちゃう……)
暦が普通の人生を諦めかけたその時、

394 名前:タイトル未定19 投稿日:03/12/24 11:57 ID:???
ゴイン☆

「とんがッ」
愉快な叫びと共に拘束と愛撫が消えた。
「成功やー」
後ろを見ると目に渦巻きを生じさせ昏倒している榊と、片手にフライパンを装備した大阪。
その鋼鉄製の調理器具によって、かつては起こすのには失敗したが、今回眠らすのには成功したわけだ。
「お、おおさかー」
へなへなと膝立ちになって、暦は安堵感から情けない声を挙げる。
どうやら思わぬ伏兵が絶体絶命の窮地を間一髪で救ってくれたようだ。
本当に助かった。騎士十字章ものだ。後で長靴いっぱいシュークリームを食わせてやろう。
「さんきゅー、ナイスタイミング(暦にとって)。でさ、少し肩貸してくれないかな? 実は足に力が入んなくってさ、ハハ…」
大阪はそれを快く承諾し、暦の前に立った。
前に?
「えーと、大阪。肩を貸してっていうのは……」
「私もなー、よみちゃん狙っててん」
「は?」
思考回路を切断されたのは本日何度目だろう。しゃっくり常習者なら感謝するかも知らんが、当方はいい加減驚き疲れた。
「黒沢せんせー、好きな人モノにすんなら“きせいじじつ”作るんが一番て」
「は……はは……」
もうどうにでもしてください。
【>暦は厭世の観念を手に入れた!】

395 名前:タイトル未定20 投稿日:03/12/24 11:58 ID:???
あんな短い舌でどうして榊以上のことができるのか。これは本当に大阪なのか。
そう疑うほど彼女は上手かった。
榊を性技の王とするなら、大阪は性技の神だ。王は人間に過ぎないが、神はそれを超越する。これが、大阪能力…!
とにかく全てがすごかった。
膝立ちの状態なので身長差は関係なく、いいように上から口内を弄ばれる。気づけば自分の舌を引っ張り出され、相手の口の中で唇と舌と歯とで存分にもてなされていた。
舌だけでなく両手もまるで別の生き物のように蠢いて、先の情欲を蘇らせてはより燃やす。右手と左手が前や後ろ、左や右、上や下、縦横無尽に……まるで手が無数にあるように感じられる。
幼さの残る身体は擦りつけられて、暦の成熟した身体を悦ばせる。もどかしいような、切ないような感覚を巧妙に引き出していく。
まさしく大阪は全身で暦をむさぼっていた。
「豆知識ー、ク×××スって感じるんやてー」
――それは豆知識じゃなくて、豆の…
ツッこむことは適わなかった。
そこの部分を強く摘まれたから。
もう何が何だかわからなかった。どうでもよくなっていたのかもしれない。
ただただ気持ちよかった。
「よみちゃんは何で飛ぶのん……?」
「――――! ――――!!」
何度も飛ばされる意識の中、暦は思った。
あぁ、この快楽に染まった悪夢の海に、もしも名前を付けるなら……


【大酒(オオサカ)冬の陣:完】