- 851 名前:天気 投稿日:04/03/08 04:12 ID:???
- 今日は買い物に出かけてみた。
何時もなら歩いては行かないけれど、今日は歩いてみた。
天気が良かったから。
何となく立ち寄った音楽店。今まで何度も来ていたが、何時もは行かない奥の方まで行ってみた。
初めて立ち入る場所に少し気後れがあったが、とりあえず物色してみた。
『天国への階段』
そうやって歩いている私の目が止まったのが、その言葉だった。
何に惹かれた訳でもなかったが、何となく気になったのも事実だった。
…レド… ゼッペリン…?聞いた事も無い歌手だ。
でも特に目的があった訳でもなし、それを買って帰るのも悪くない、そう思った。
天気が良かったから。
帰宅して本を読む。何時もと変わらない。
あっ、そういえばCDを買ってきたんだった。普段は本を読む時は本を、音楽を聞く時は音楽に集中するのが常だ
ったが、こういうのもたまには良いかもしれない。
……何だこれは?物凄い勢いでギターが掻き鳴らされる。あまり聞いた事は無いが、ロック… という奴なのだろ
う。これはこれで味わい深いが、本を読みながら聞くには刺激が強すぎる。
そう思いながら曲を飛ばしていく。途中何度かその指を休めて聞き入る事もあったが、本を『読みながら聞く』事が
目的でもあったし、結局、最後の一曲になってしまった。
あ… この曲は… 良くTVでも聞いた事がある。静かにギターが流れていく。少し物悲しさを感じさせる。
何という曲なのだろう?……あぁ、この曲が…
十何曲入っていた内、数曲をラジカセで聴きながら本を読む事にした。
こういうのも、悪くない。今度からはこうして本を読む事にした。
天気の良かった事が嬉しかった。
- 852 名前:天気の2 投稿日:04/03/08 04:15 ID:???
- 次の日も天気が良かった。
昼休みだった。皆は何処か違う場所で食事をとるのだろう、教室には誰も居なかった。
…… 今日も天気が良い。その気になれば何処までも飛んで行けそうだ。
天国までだって。
神楽「榊〜。お前も昼ご飯かー?一緒に食べようぜ。」
榊 「神楽…。」
私の物思いを止めさせた彼女がお弁当箱を持って近寄ってきた。そして…
智 「あっれ〜?榊ちゃん、よみと一緒じゃないんだ?何処行ったか知んない?」
榊 「さぁ… 私にも…。」
その後ろから勢い良く教室に飛び込んで来た少女も手にお弁当箱を持っている。
どうやら親友を探しているようだった。
智 「ったく、一緒にご飯食べてやろうと思ったのに…。 まぁ良いか。榊ちゃん一緒にご飯食べようー。」
神楽「だな。散々探していない方が悪い。」
榊 「………。」
思わず苦笑いが毀れる。ご飯を食べるのに良いも悪いもないものだと思うが…。
でも、食べるなら皆一緒が良い。美味しいに越した事は無いが、楽しければもっと美味しいのだから。
それに… こんなに天気も良いのだし…
神楽「どうしたんだ榊?さっきから外ばっか見て?外にあいつ等居なかったぞ?」
榊 「… 天気が良いから。」
智 「おー、そういや最近天気が続いてるよなー。」
榊 「うん…。 天国まで飛んで行けそうな…。」
- 853 名前:天気の3 投稿日:04/03/08 04:17 ID:???
- 思わず言葉が毀れる。
しまった、と思った時には二人とも何とも言えない顔で此方を見ていた。
神楽「榊…」
榊 「別に悩み事がある訳じゃない…。 ただ天気が良かったから…。」
智 「ふ〜ん…。まぁ良いけどさ!でも天国ねぇ〜。私はともかく、皆向こうに行けるかね?」
気まずいだったが、そういった空気が消えた。こういう時の滝野の性格には感謝している。
色々突っ込みたい所だが。
神楽「私はともかくって何だよ?お前こそ皆に迷惑ばっかかけてんじゃねぇか。特によみに。」
流石だ神楽。私の気持ちに良く反応してくれている。
智 「判ってないな〜。あれはスキンシップとか交流とかそういう事でね?私が抱えきれない程の思い出を残してあげ
てる訳よ。」
神楽「…そこまで言い切れる、お前は凄いな。」
智 「でしょ〜?」
滝野… お前はもう少し、相手が何を言わんとしているか考えた方が良い… と思う。
神楽「まぁ、それは良いとして。 天国ねぇ〜?ちよちゃんは行くだろーなぁー。」
智 「大阪も行くだろう。何となく、いつの間にか其処に居ると思うぞ?」
神楽「本人も気付かないうちにな?」
そう言って二人で笑いあう。
この二人にしてもそうだ。何時でも笑った顔が似合う。そんな奴が行けないはずがない、そんな気ガする。
…では自分はどうなんだろう?
自分も人から見られて行ける人間に写っているのだろうか?天国に。
- 854 名前:天気の4 投稿日:04/03/08 04:19 ID:???
- 智 「でもさ、そんな良く判んない事考える事でもないよな。」
神楽「まぁなぁー。明日の事も判らないのに死んだ後の事ってのも、ちょっとなぁ?」
智 「だよなー。明日は明日の風が吹くって言うしね。」
神楽「それは考えなさ過ぎじゃないか?」
智 「そう?」
…それもそうかも知れない。
一秒先の事だって判らないのに、そんなに先のことなんて判りっこないのだし。
私は何を考えていたんだろう。
智 「まぁ良いんじゃない?明日の事考えるなんて、今してもしょうがないし。」
神楽「お前はしてるだろ?」
智 「へ?何で?」
神楽「明日の弁当のおかずは何だろう〜?とか。」
智 「なっ!?何言ってんだお前!?私だって色々考えてんだぞ!?色々!!」
神楽「例えば?」
智 「うっ!?……例えば… おかずとか …って、お前も似たようなもんだろ!?」
神楽「うっ!?いや、私は他にも考えてるぞ!?テストとか!!」
智 「………。」
神楽「………。」
結局、それくらいが丁度良いのかもしれない。
明日のお弁当のおかずや、テストの結果を考えるくらいで。
そういう一喜一憂が積み重なって生きていくくらいで。
いつの間にか肩に力が入っていたようだった。軽く肩を回し、今思いついたことを二人に告げた。
榊 「皆は… 屋上に居るかもしれないな。」
神楽「え? …あぁ!そうか屋上はまだ見に行ってなかった!」
智 「そうだな!天気も良いし暖かいし。大阪なんて『飛べそうやな〜』とか言ってたし!」
榊 「………。」
- 855 名前:天気の終わり 投稿日:04/03/08 04:22 ID:???
- …たった今、心配事が一つ増えた気ガした。
神楽「… なぁ?何となくだけど、早いとこ屋上行かね?」
智 「はは、何心配してんだよ?幾らなんでも、大阪だって……。」
何時もは元気な彼女が、思わず口ごもる。
私は、何も言わずにお弁当を手に走り出す。
後ろの方から何か言ってきているのが聞こえたが、とりあえず屋上に行く事が先決だ。
… こういう事も思い出にかわって行くのだろうな。
ふと、そんな事を考えた。
ある天気の良い、お昼のお話だ。