759 名前:鉄板榊 投稿日:04/03/01 23:08 ID:???
−球技大会inソフトボール−

 砂塵吹き抜けるグラウンド。
 中央の小高い丘に立つ黒鉄の城、神楽。
神楽「榊… 今日この時、この瞬間を、私は待ってたんだ…。」
 ゆっくりと、振りかぶる。
 その右手には白の弾丸。今まで数多の敵を三振に撃ち抜いた魔弾。握り絞め、細かに震えるその腕はこれから越
えようとする壁を前にする『恐れに似た畏れ』のためなのか。

 否、断じて否。
 仮に、それが『恐れ』であろうとも、私が倒したいと渇望する相手の強大さこそ望むところ。それでこそ、それでこそ!

 振り上げた左足が天を突く。
 右足、大地を踏みしめ小揺るぎもしない。その形は弓。一矢に全てを賭けたる、それこそ勇猛果敢。
よみ「行け!神楽!!」
 級友たちの声が背中を押す。
大阪「後ろには私等がついてるで〜」
 致命的な断崖を背負った背水の陣。覚悟が腕を加速させる。
神楽「勝負だっ、榊!」

760 名前:鉄板榊の続き 投稿日:04/03/01 23:10 ID:???
榊 「神楽……」

 『私は神楽ってんだ』 『お前と私はライバルだ』
 何度となく挑戦を繰り返してきた。
 『あ〜、それよりさ〜』
 花の名前一つでも私より知っている様に振舞った。それも、全ては私と対等で居ようとせんが為に。
 それを私はどうしたのか?争いを避け、逃げていたのではなかったか?
 目を瞑り、俯く。逃げては駄目だ… 判っている。だが…、彼女の、神楽の性格が… 勝っても執拗な挑戦が… 私
は疲れたんだ… 争いに… 神楽の相手をするのが…

智 「あぁ〜!?目ぇつぶったら打てるモンも打てないぞ榊ちゃん!?私達の仇を打ってくれ〜〜〜!!」
 判っている… 判っているんだ… だがっ…!
 空しさが胸を去来する。絶望が手足を重くする。どうすれば… 私はどうすれば良いんだ…っ。

ちよ「榊さんっ!全力を振り絞った相手を前に、何を迷っているんですか!?」
榊 「ちよちゃん!?」

761 名前:鉄板榊の続きの続き 投稿日:04/03/01 23:10 ID:???
 そうだ、私は何を迷って居たのだろう?全力には全力で返す。これが礼儀ではなかったか?
榊「…もう、迷わないっ…」
 その瞬間、そこに居た精神的に疲弊した少女は消えた。そこに立つのは一人の戦士。黒鉄に対する白銀の騎士。

榊「神楽… もう、逃げはしないっ。」
 手に掲げるは銀のバット。勇敢に挑んで来た生徒達を一振りで沈めた断罪の剣。
 今こそ応えよう、神楽。私とお前の決着を付けよう。お前の全身全霊と。
榊「私の全身全霊で…!」

 白球が目前に迫る。全てがゆっくりに見える。今まで二人で築いた時間を感じる。

 『願わくば…』

 神楽の目を見る。何と真っ直ぐな目をしているのか。思えば何時も、その目で私を見ていてくれた…

 『後腐れの残らぬ様に……』

762 名前:鉄板榊の3 投稿日:04/03/01 23:24 ID:???

 … コ ン ッ …

 乾いた音が木霊する。好敵手を一投のもとに倒すはずの白球は神楽の足元へと転がって行く。
榊 「ちっ」
 球を転がす方向が悪い。あれでは、神楽の肩が相手では全力疾走でも間に合うか微妙だ…っ!
 脇目を振らず一塁へと走る榊。

 駄目だっ。このままでは…!

 一塁が遠い。何時になったら着くのだろう?心臓は早鐘のように鳴り響き、足の筋肉は悲鳴を上げている。
 『もぅ、良いかも知れない…』
 弱気になった心でそんな事を考え出す。自分でも判っている。考えてはいけない事だ。しかし、その思いとは裏腹に
 止め処なく榊を塗りつぶしていく。

 だがその時、諦め掛けた心にちよの言葉が蘇る。
 『全力には、全力で』
 そうだ、諦めては駄目なんだっ!!

榊 「っっくぅ…!」
 ラストスパート、これが正真正銘、乾坤一擲の全開。もう、どうにでも、なれっ!

763 名前:鉄板榊の4 投稿日:04/03/01 23:33 ID:???
榊 「はっ… はぁ… はぁ…」

 セーフなのか?アウトなのか?早く教えて欲しい。だがそれを知りたくないのも事実。
 塁審を務めるかおりんを見る榊の顔に戸惑いが浮かぶ。

カオ「………」
榊 「ど、どっち、なんだ?」
カオ「えっ…」
榊 「せ、セーフなのか… あ、あぁ…」
 『アウトなのか?』たった一言だったが、今の榊には聞くことが躊躇われた。
 口に出せば、それが本当のことになりそうだから。

カオ「え…、えっと、その…」
榊 「どっちなんだっ!」
 何時もとは違う、榊の気迫にかおりんも言葉に詰まる。

 たっぷり10呼吸。かおりんが重い口を開いた…

カオ「セーフ… です…」

榊 「………っ!!」
 小さなガッツポーズ。
 だが、彼女の心境を表すのに、これ以上のものは無かっ
神楽「いやちょっと待てよおいっ!?」