652 名前:ともチョコ1 投稿日:04/02/14 23:38 ID:???
 「ともちゃん。はい。チョコですよー」
 ちよちゃんがかわいくラッピングされたチョコレートを取りだした。
 いつもの6人で昼食を食べ終えたところだ。
 「えっ、私に!? いやぁ、ちよすけの気持ちは嬉しいのだが、私には心に決めた・・・」
 「あ、え、そういうのとは違いますよ。みなさんにですよー。
 こっちは神楽さん。こっちは大阪さんにです」
 「えっ、私にも」
 「私にもなんて、ちよちゃんは浮気性やねー」
 「だ、だからそうじゃなくって・・・」
 ボンクラーズの応酬に困るちよちゃん。
 「・・・友チョコ」
 榊が一言発した。一瞬その場を沈黙が支配したが、すぐに智が反応した。
 「トモチョコ? 何、私のチョコってこと?」
 「『友だちチョコ』ことだよ。女の子同士で贈るの。
 昨日、私とちよちゃんと榊でお前らボンクラーズに作ってきたんだよ!」
 一気呵成につっこむ私。
 いつもならもっと早くつっこむはずなのに、ともが変なことを言うから・・・。


653 名前:ともチョコ2 投稿日:04/02/14 23:41 ID:???
 そう、今日は2月14日、ヴァレンタインデー。
 渡す彼氏もいないお利口3人が、これまた渡す彼氏がいないお馬鹿なボンクラーズに
「友チョコ」を作ってきたのだ。
 もちろん自分のための特製チョコも作ってある。そしてもう一つ用意してあるのが・・・
 ふと考え事をしている間にチョコは全て平らげられていた。
 「うむ、余は満足じゃ」
 「おいしかったでー。晩御飯もチョコでもええなー」
 「後で歯磨きしないとな」
 三者三様のコメントながら満足してくれたようだ。
 チョコ作りの失敗談や隠し味のことで盛り上がりながら談笑していると、
かおりんが私たちに近づいてきた。
 「さ、さ、榊さん。こ、これ私、さ、榊さんのために、つ、作ってきたんです。
 う、受け取ってください」
 「・・・ありがとう」
 一瞬驚いた榊だが、お礼をいって受け取った。
 「かおりんも『友チョコ』つくったんやー」
 「へー、はやってるんだなー」
 「まー『とも』チョコだからな! 流行らないはずはないな」
 ボンクラーズが何やらわめきながら勝手に榊のチョコに手を伸ばした。
 「『友チョコ』じゃなくって、こ、こら、とも。それは榊さんに!」
 「なかなかいけるなー」
 「ちよちゃんたちの手作りよりもうまいな」
 「かおりんも上手やなー」
 「だから、大阪。それは榊さんに! こら!」
 
 


654 名前:ともチョコ3 投稿日:04/02/14 23:42 ID:???
 ボンクラーズとかおりんのバトルにも榊は無関心だった。
 ラッピングのネコのイラストの方に興味があるようだ。
 しかし、ふと思い出したようにかおりんにチョコを差し出した。
 「かおりん、これお返しに」
 「えっ。私に? 榊さんが?」
 「私やよみさんとの手作りですよー」
 「榊さんの手作りー!?!?」
 ちよちゃんとわたしのことはどうでもいいらしい。
 かおりんは榊に礼を繰り返しながら、そして私とちよちゃんには
何も言わず「ラララ〜♪」と歌いながら去っていった。 

655 名前:ともチョコ4 投稿日:04/02/14 23:43 ID:???
 昼食を食べたあとの5時間目はやる気が出ない。
 ましてや木村先生の古文の授業だ。
 「かおりんが欠席―!!! 残念賞―!!!」
 木村先生の大声ではじめて気付いた。かおりんがいない。どうしたんだろ?
 さっきは元気だったのに。
 他のクラスメイトも多少ざわざわし出したのだが、ボンクラーズの面々はすでに
眠りの世界へ旅立っていった。
 「ともちゃんチョコ。えへへへへへー」
 とものあやしい寝言が聞こえてきた。何を考えているんだ、こいつは。
 なんでこんな奴にふりまわされなくちゃならないんだろ。
 そしてさっきともが言ってたあの一言が思い起こされてきた。
  『気持ちは嬉しいのだが、私には・・・』
 ちょっと気になるな。
 ともの言うことだから真剣に受け取る必要もないのかもしれないが、気になる。
 そんなことをぼーっと考えているうちに5時間目は終わっていた。
 休み時間に千尋がかおりんの荷物を持っていった。早退らしい。
 「風邪やが流行ってますから心配ですねー」
 なんて、ちよちゃんと話していたが、きっとボンクラーズには風邪など関係ないんだろうな。
 そういやともが風邪をひいたことがあったっけ?


656 名前:ともチョコ5 投稿日:04/02/14 23:44 ID:???
 帰り道もいつもの6人。
 そして、いつものようにともと二人だけになった。
 いつもの公園で二人でおしゃべり。
 「とも」
 「ん?」
 「これ」
 私はともにチョコレートを差し出した。
 「おっサンキュー。あれハート型じゃん」
 「ああ、まあな。おいしいって聞いたんで買ってみたんだ」
 「へー、よみはいらないのか?」
 「私は、自分で作ったチョコレートが・・・。あれ?」
 「どうしたんだ?」
 「自分用に作ったとうがらしチョコが見当たらない」
 「とうがらし? なにそれ。ホントに激辛好きだなー」
 「うーん。落としたのかな?」
 「あきらめな。これを半分やるから」
 「あっ!」
 ともはチョコレートを半分に割ってくれた。ハート型のチョコを半分に・・・。
 「ホントおいしいなぁー。やっぱ食べ物のことはよみに頼むのが一番だな」
 私の狼狽には気付かずにチョコレートを頬張っている。
 私の気持ちなどまったくお構いなしだ。
 もちろん私の気持ちが何かを伝えていないのだから私が悪いのだが。
 かーっとなったせいか、ふと言葉が出てしまった。
 

 「ともの心に決めた人っていうのは誰なんだ?」


657 名前:ともチョコ6 投稿日:04/02/14 23:49 ID:???
 言い終えるまでに後悔した。余計なことを言ってしまった。しかし、
 「ん? 何それ?」
 ともから帰ってきたのはそっけない返事だった。
 「えっ? 昼休みに言っていたじゃないか」
 「そんなこと言ったけー」
 やっぱり真剣に考えていた自分がばかだった。
 「なんで、そんなことを聞く、あっ、ひょっとして暦さんはこのともちゃんが
 気になって仕方がないのかなー。まぁ魅力的だからしかたないよねー。
 あぁ、同性をも惑わすこの魅力。罪よねー」
 「なっ、何を言ってるんだ」
 「だってチョコもハート型だったし」
 「そ、それはたまたま。昼休みにも言ってただろ。友チョコだ!」
 「ふーん」
 「友チョコ!」
 「まぁおいしいチョコを2つももらったからそろそろ勘弁してやるか」
 「友チョコ!」
 「はいはい」

 自分の気持ちにウソをつきながらも、ともに優位に立たれるのはイヤだという
本能が働いてしまう。長い付き合いの弊害かな。

 でも本当は私の気持ちがこもったチョコレートなんだよ。
 だって今日はヴァレンタインデー。
 「友チョコ」なんかじゃない。
 このチョコは、私だけの「とも(ハート)チョコ」 。
                                              完