- 669 名前:650-652=660 投稿日:02/11/10 07:50 ID:???
「メーデー!メーデー!!こちら水原機、被弾した・・・」
暦の叫び声が拡声器から響く。普段は至って冷静な彼女だが、さすがに動揺は隠せない。
攻撃成功の報に沸き返る司令部は、一転して沈黙してしまった。
その中で一人、谷崎ゆかり司令は落ち着いた様子を見せている。
「これより脱出する、現在空域は・・・」
通信が途絶した。同時にやるべきことも決まった。あとは指示を出すだけだ。
「にゃもに繋いで!直ちに救出部隊を出動させる!!」
まもなく大型ディスプレイに心配そうな表情を浮かべた女性が映る。
黒沢みなも隊長、空軍教導部隊の総責任者である。
「にゃも、使えるロードランナーを出して。水原が・・・」
黒沢隊長は軽く頷くと、誰かを手招きする。
「アタシたちにも出番が来るなんて・・・」
「よみちゃん、怪我してへんやろか〜」
「よみは体が脂肪で出来てるから大丈夫なのだ」
めいめい好き勝手なことをいいながら、既に戦闘装備を整えた3人の少女たちが画面に現れる。
彼女たちを呼び寄せて整列させると、黒沢隊長は姿勢を正して報告する。
「第101遊撃部隊、水原少尉の救出作戦を開始します」
「よろしい、全力を尽くして作戦を遂行するように」
谷崎司令は少し表情を緩めると、司令部の室内に響き渡る声で命令を下す。
「上空支援には榊の偵察攻撃小隊を出すわ!ボンクラーズ、出撃せよ!!」
ガンダムSEEDを観ていたら、こんな感じになりました。果たして続くのだろうか・・・
- 672 名前:660=669 投稿日:02/11/11 03:37 ID:???
- >>669
慌しく動き回る地上作業員の傍らで、彼女たちは装備の最終点検を行う。
通信担当の大阪は各セクションとしきりに交信を繰り返していた。
「こちらボンクラーズ、榊ちゃん応答せよ〜」
何とも間の抜けた口調だが、与えられた任務は確実にこなしてくれる。
「こちらプリティーキャット、君たちに必要な装備を教えてくれ」
2人にその旨を伝えると、神楽は大阪から無線の受話器を取り上げる。
「榊、何でもいいから積めるだけ積んでくれ。頼む!」
暦が脱出したのは敵の制圧地域内らしい。救出作戦は一刻を争う、なりふり構っていられない。
「重爆撃装備だと上空支援は20分が限界だ」
受話器ごしに榊の不安な声が聞こえる。だが、神楽は嬉しそうな表情を見せる。
「速攻が取り柄のボンクラーズだぜ、絶対によみを助けてみせるさ」
そういって大阪に受話器を返すと、重機関銃を抱えて輸送ヘリに乗り込む。
ロードランナー・ボンクラーズを乗せた輸送ヘリが離陸する。
眼下には爆装を終えた榊の機体が滑走路に並べられ、今まさに離陸しようとしているところだった。
「おっ、榊ちゃんの偵察機が見えるぞ。でもあれじゃあ爆撃機みたいだなー」
偵察機とはいっても、その内実は主力戦闘機に偵察装備と増設燃料タンクを装備した改造型である。
翼下にある全てのハードポイントに特殊爆弾を装備しているので、爆撃機のように見えなくもない。
十分に高度をとった輸送ヘリは、暦の遭難予想地域へ急行すべく速度を上げる。
暫くすると、滑走路と司令部の姿が水平線の向こうに消えた。
- 688 名前:673=678 投稿日:02/11/17 05:17 ID:???
- >>672
不運にも敵軍の地上砲火を受け、やむを得ず敵地の真っただ中に脱出した水原少尉。
幸いにも着地の際に負傷することもなく、取りあえず自力で動ける状態にはある。
「そういえば、冷蔵庫にシュークリームが残っていたっけ」
刻一刻と危機がせまっている時に限って、どうでも良いことが頭に浮かぶ。
今はそれどころじゃない・・・緊急用の携帯無線の電源をオンにして、受信状態を維持しておく。
「こんな所でのんびり出来るなんて、皮肉なもんだね」
深い森の中、ひんやりとした空気に包まれて、忘れかけていた穏やかさに彼女は身を委ねる。
それにしても、上層部の楽天主義は何とかならないものだろうか。
今度の戦役も無駄に長引かせているくせに、その尻拭いは何時も我々に押し付ける。
私たちは、一体何のために戦っているのだろう。
「・・・こちらボンクラーズ・・・よみちゃん、応答せよ・・・」
携帯無線のスピーカーから、雑音に混じって聞き覚えのある声が流れている。声の主は大阪らしい。
ロードランナーに課せられている任務の一つとして、遭難したパイロットの救出がある。
長距離偵察任務と同様に、強い精神力と適切な判断能力が絶対に欠かせない。
任務の成功イコール部隊の生還は、メンタル面の能力によって決定されるともいえよう。
それなのに、速攻しか取り柄のないボンクラーズを寄越してくれるなんて。
全く、運命というものは残酷だな。ゆかり司令もにゃも隊長も冗談きついよ。
おもむろに携帯無線を手にしながら、スイッチを送信状態に切り替える。
「こちら水原少尉。ボンクラーズ、応答願います」
無事に司令部に戻れたら、あの3人にはシュークリームをたらふく食わせてやる。
- 701 名前:688-689=697 投稿日:02/11/22 05:01 ID:???
- >>688
緊急用の携帯無線は能力が低く、交信可能な範囲はさして広くない。
それ故に、送受信の双方で通話が可能になるということは、両者が近くに存在していることを意味する。
大阪の無線の受話器に、聞き慣れた水原少尉の声が響く。
「ボンクラーズ聞こえるか?今から黄色の発煙弾を撃つぞ、そこが私の遭難位置だ」
やや間をおいて、眼下に広がる森林から黄色い狼煙が上がる。あそこだ!
「現在位置より十時方向、距離500。ボンクラーズ、水原少尉を頼んだぞ!」
輸送ヘリのパイロットが声をかけると、巧みな操縦で森林の切れ間に着陸する。
「20分経ってもに戻らなかったら、構わず離陸してくれ!」
智がそういうと、彼女たちは一斉に飛び出していく。
コンパスと地図を確認しながら、ボンクラーズはどんどん進んでいく。
「こちらラピッドエクスプレス、ボンクラーズの健闘を祈る」
ふと見上げると、上空を友軍機が何機も通過するのが見える。
「みんなのためにも、よみちゃんを助けなあかん」
大阪がそういうと、ライフルを片手に先頭に立つ智がいう。
「まったく、よみはアタシがいないとダメなんだから!」
アンカーは神楽である。敵の追撃を避けるため、繰り返し後方確認を行う。
「大阪、榊と連絡は取れ・・・」
いきなり轟音が頭上を襲うやいなや、進行方向のずっと向こうから爆発音が聞こえてくる。
- 703 名前:697=701 投稿日:02/11/24 02:23 ID:???
- >>701
「こちらプリティーキャット、地上からミサイル攻撃を受けた。敵は本気らしいぞ!」
無線の受話器から榊の叫び声が響く。どうやら状況は良くないらしい。
「こちらボンクラーズ、榊ちゃんどうぞ〜」
ミサイル攻撃の報を聞いて、神楽が大阪から受話器を奪い取る。
「榊っ大丈夫か?対空ミサイルってことは、中隊規模の敵が存在するのか・・・」
このままではよみが危ない、そう感じると彼女たちは急ぎ足で進んでいく。
木々の枝に引っかかったパラシュートを見つけると、程なく一人のパイロットが姿を現す。
「ボンクラーズ・・・待っていたよ、ありがとう」
智がよみの手を握ると、自信に満ちた表情を見せる。
「たい焼きおごってくれるよな!」
まったくこいつは・・・と思った瞬間、いきなり後ろから銃撃を受ける。敵だ!
すかさず神楽が重機関銃を撃ちまくると、発煙筒を敵に向かって投げる。
「大阪、榊に支援要請を!赤色のスモークの北側を爆撃させるんだ!!」
そう叫びながら手榴弾を投げて、少しでも脱出の時間を稼ぐ。
「みんな早よ逃げるんや〜」
大阪の声を合図に全員が走り始める。少しすると後方から激しい爆発音が聞こえてくる。
それに続いて無線の受話器からも頼もしい声が聞こえてくる。
「こちらプリティーキャット、私たちは時間の許す限り君たちのそばにいる」
- 713 名前:703-704=710 投稿日:02/11/27 01:42 ID:???
- >>703
一刻も早く輸送ヘリが着陸した地点へ、彼女たちは遮二無二走る。脱出までの時間は少ない。
智が暦の手を取って走り、大阪が榊と交信を続け、神楽が重機関銃を乱射して敵の追撃を妨害する。
追撃してくる敵との間合いを見極めて、色の違う発煙筒を敵に向かって投げつける。
「さすが榊、注文通りやってくれるぜ!」
榊は神楽の意図を理解していた。上空からスモークを確認しては、森林に潜む敵に銃爆撃を与える。
両者の連携プレーが功を奏したのか、敵の追撃速度が少しずつ落ちていくのが分かる。
敵との速度差が相対的に大きくなってまもなく、森林の切れ目が彼女たちの視界に入った。
「ボンクラーズ急げ!頑張って走るんだ!!」
輸送ヘリのローターを始動させながら、パイロットが操縦席から顔を出して大声で呼びかける。
「よみ、もう少しの辛抱だ!」
智は手にしていたライフルを投げ捨てると、暦の手を強く握り最後の力を振り絞って走る。
最初に大阪が、続いて智と暦が輸送ヘリにたどり着く。だが神楽はまだ来ない。
「神楽ちゃんもうええで!急いでこっちに来るんや〜」
その声を聞いた神楽は重機関銃を捨てて、素早く輸送ヘリに向かって走り始める。
榊は地上の様子を理解すると、森林の切れ目に向かって残りの爆弾を全て投下する。
全力疾走する神楽の背後で何度も爆発が起こり、衝撃波で体が押され気味になる。
「うあっちぃ!アタシまで焼く気かよー!!」
そう叫びながらほうほうの体で乗り込むと、間髪入れずに輸送ヘリは離陸した。
「こちらプリティーキャット、水原少尉の救出作戦は成功した」
予定支援時間が終了すると、榊の偵察攻撃小隊は機体を翻して司令部へ帰投する。
命からがらの脱出劇を演じた彼女たちは、輸送ヘリの中ですっかり眠りについていた。
(とりあえず、終了)