- 436 名前:メロン名無しさん 投稿日:02/10/03 15:59 ID:???
- あずまんが the another story
〜卒業〜
春・・・それは出会いと別れの季節・・・
春の陽気を頬に感じつつ、俺は目を覚ました。
いつもは忌々しさすら感じるこの瞬間も、今日は特別だ。
・・・そう、今日で俺は高校を卒業する。
思えばこの三年間、色々なことがあった。
苦労の末、第一志望だった学校に受かったこと。
多くの親友が出来たこと。
そして・・・生まれて初めて、自分よりも大事だと思える人と出会えたこと。
色々な思い出が、まるで走馬灯のように頭の中を通り過ぎていく。
俺は、今日で最後の付き合いとなる制服に腕を通した。
今まで何も考えずに着ていたが、今となっては沢山の思い出が染み込んでいるようにすら思えてくる。
すっかりくたびれてしまった学校鞄を下げると、俺は春の陽気に後押しでもされるように学校へと向かった。
満開の桜が、目に眩しかった。
- 437 名前:メロン名無しさん 投稿日:02/10/03 16:05 ID:???
- いつもの通学路で、俺はベンチに腰掛けた。
人と待ち合わせをしているのだ。
桜が風に吹かれてひらひらと舞い落ちるなか、俺は往来を眺めていた。
この景色も、今日で最後か・・・
「だ〜れだ?」
突然視界が塞がれた。どうやら背後から目隠しをされたらしい。
その声の主は、一人しか考えられなかった。
俺にとって一番大事な人の、一番愛しい人の声・・・
「・・・神楽だろ?」
「当たり!・・・へへへ」
彼女の笑顔を見ていると、自然と俺も笑顔になってしまう。
「めずらしいじゃん、あたしより早く来るなんてさ」
「いや、なんかさ・・・いつもより早く目が覚めてな」
「あはは、いい心がけじゃない!」
「そう言う神楽だって、今日は早いじゃないか」
「へへ・・・あたしも今日は、ね」
ありきたりのやり取りも、今日はなんだか一言一言が大事に思える。
ふう、とため息を付き神楽は言った。
「あたし達、今日で卒業なんだね・・・」
「・・・ああ」
春風が吹き、ざあっと桜の大樹が揺れる。
暫くの沈黙が、俺たちの周りを支配した。
だが、その沈黙はどこか心地よいものだった。
「・・・行こうか?」
「・・・ああ、そうだな。行こう」
春の暖かい日差しの中、俺たちは学校へと向かった。
今日で最後となる、通学路を通りながら・・・
- 456 名前:三流 投稿日:02/10/04 16:37 ID:???
- 続きっす
前回>>436-437
「おめでとー!」
「おめでとう!」
そこかしこから、卒業を祝う声が聞こえる。
その声を聞くと、ああ・・・やっぱり今日で卒業なんだな、なんて思えてくる。
相変わらず馬鹿騒ぎする級友もいれば、泣き出してしまうような級友もいた。
そんな中、俺は親友達と思い出話にふけっていた。
ふと話の途中に神楽の方を見る。
学校内でも結構有名な、いつもの仲良しグループ。
その輪の中に、神楽はいた。
やはり見慣れたメンバーといると神楽も素が出るのだろうか、
滝野さんと何か冗談を言いながらじゃれ合っていた。
一応これからも彼女達と会えるのだろうが、やはり今までのように
毎日学校がある訳ではない。
仲良しグループの中の神楽は笑顔ではあったが、どこか寂しそうにも見えた。
- 457 名前:三流 投稿日:02/10/04 16:38 ID:???
- 「ああー、疲れたなぁ」
「校長の話、相変わらず長かったなー」
式も無事に終わり、最後となるHRも無事に終わった。
すぐに帰る事もできるのだが、皆なかなか帰ろうとしない。
仲の良かった写真を撮るもの、寄せ書きを友達に頼むもの、泣いてしまう友人達を自分も泣きながら慰めるもの・・・それぞれ、最後となる学校生活を名残惜しんでいるようだ。
神楽もやはり、仲良しグループとまだ学校に残っていた。
時が経つにつれて一人、また一人と級友が家路につくなか、
神楽達は結局最後まで残っていた。
折角の時間を邪魔するのも無粋なので、俺はクラスの外で待つことにした。
暫くして・・・
- 459 名前:三流 投稿日:02/10/04 22:43 ID:???
- ・・・もうちょっとうpしても平気かな?
続きです
ガラッ
扉の開く音とともに、見慣れた一団が教室から出てきた。
「っとに智はいつまで経っても変わらないよな」
「あはは、それがアタシのポリシーだからね〜!」
「・・・智ちゃん、それはちょっと違うと思いますよ」
話しながらクラスから出てきた、水原と滝野とちよちゃん。
その後ろには春日と榊。
「お、アンタまだ残ってたのか」
「まあ、な」
水原は俺に気がついて、話し掛けてきた。
すかさず滝野も言葉を継いだ。
「へえ〜、どうやら神楽にゾッコンのようですな〜。こんなに長くの間待ってるなんて!」
「・・・うっせーなー・・・あれ、ところで神楽は?」
「神楽ちゃんならまだクラスの中におるでー」
「そうか、ありがとう」
春日の言葉を聞くと、自然に俺の足はクラスの中へと向かっていた。
- 460 名前:三流 投稿日:02/10/04 22:46 ID:???
- 「おーい、神楽ー」
ガラリ、と扉を開け、俺は教室へ入った。
既に他の生徒は帰路につき、誰もいない教室を夕日が紅く染めていた。
神楽は自分の机をじっと見つめながら一人佇んでいた。
「・・・神楽?」
「あ!ごっ、ゴメン!待たせちゃったな!」
「どうしたんだ?何か考え事でも?」
「うん・・・ちょっと、な」
そう言いながら、神楽は机を優しく撫でた。
「今まで何にも考えずに使ってきたけど、もう今日からは使わないんだよな」
「ああ、そうだな」
「本当は思い出として持ち帰りたいんだけどね」
「いや、それは無理だろ・・・」
「ははは、やっぱり駄目か」
神楽は照れくさそうに笑った。
「あたしは皆と同じクラスになったのも二年からだし、クラブもやってたから皆と共有できた時間も少し短かった・・・
だから、皆といられる時間はどんなときでも精一杯やってきた。だからいい思い出も沢山できたし、あたしも楽しかった。
でも・・・」
- 468 名前:三流 投稿日:02/10/06 00:26 ID:???
- 前回>>456-460
少し間を置き、神楽は続けた。
「・・・でも、今日で卒業しちゃうんだよな。今後一生逢えなくなる訳じゃないってことは頭では分かってるんだけど・・・それに・・・」
「・・・それに?」
「それに・・・○○とも、頻繁には逢えなくなる・・・」
「神楽・・・」
それまで背を向けていた神楽は、言い終えると俺の方を向いた。
「○○・・・あたし、やっぱり寂しいよ・・・」
神楽は必死で涙を堪えながら、今の自分の気持ちを精一杯伝えた。
「神楽・・・!」
「え?・・・わっ!?」
俺は神楽を抱き締めていた。
ドキ、ドキと神楽の鼓動が俺の胸にも伝わる。
暫くの静寂が、二人だけの教室を包み込む。
神楽は俺の腕の中で真っ赤になっていた。
「な、何だよ・・・どうしたんだよ?」
「神楽・・・」
「な、何?」
「神楽が寂しくなくなる魔法の呪文を教えてあげよう」
「え?」
神楽は少し驚いた表情で俺の顔を見上げた。
神楽の髪を優しく撫でながら、続けた。
「いいからいいから、黙って聞いとけって」
「う、うん・・・」
「いいか、神楽・・・よく聞けよ?実はな・・・」
- 498 名前:メロン名無しさん 投稿日:02/10/11 01:14 ID:???
- 前回>>468
すうっ、と大きく息を吸い込んで俺は神楽に言った。
「実は俺、□□大学受かっちゃった」
「・・・え?□□大学?」
一瞬俺が何を言っているのか分からなかったのだろう、神楽はポカーンとした表情で俺の顔を見上げていたが、やがて言葉の意味を理解したのか俺に質問を投げかけた。
「ちょ、ちょっと待て!□□大学って・・・あたしが受かった大学だろ?」
「ああ、そうだよ」
「え?え?だってお前・・・この間の入試で落ちたって・・・」
「いや、実はな・・・」
未だに困惑している神楽をよそに、俺は言葉を継いだ。
「あの後大学の方から電話があってな、繰り上げ合格だってさ」
驚きの余り、声が出ない神楽の肩をそっと抱き、俺は耳元で囁いた。
「神楽・・・卒業しても、ずっと・・・ずっと一緒だ」
「!!」
その言葉を聞いたとたん、神楽は下を向いてしまった。
「・・・?神楽、どうし・・・」
言いかけて俺はハッとした。神楽の肩が、かすかに震えている。
「ずるい・・・ずるいよぉ・・・○○・・・」
「えっ?」
「みんなの・・・みんなの前では泣くまいって決めてたのにぃ・・・」
「え・・・あ、ご・・・ごめん・・・」
「あんな言葉かけられたら・・・あたし・・・あたし・・・」
「神楽・・・」
- 499 名前:メロン名無しさん 投稿日:02/10/11 01:16 ID:???
- 俺は涙が止まらなくなっている神楽をそっと抱きしめた。
今度は神楽も俺の背中に手を回してきた。
「○○・・・あたしほんとに・・・ほんとに嬉しいよ・・・」
「俺も嬉しいよ、神楽・・・」
「・・・暫く、こうしててもいいかな?」
「ああ、神楽が落ち着くまで、いつまででもこうしててあげるよ・・・」
「・・・ありがとう・・・」
夕焼け空の下、二人の影は暫くの間重なったままだった。
「おせえぞー、神楽―!」
「あっ、智!待っててくれたのか」
教室を出ると、そこにはいつものメンバーが。
教室から出てきた俺たちに、滝野が声を掛けてきた。
「まあまあ智ちゃん、二人の時間は邪魔しちゃあかんて・・・あんなふうに抱き・・・」
「わっ!!ば、馬鹿!!大坂っ!!」
春日の言葉を水原が遮る。抱き・・・?まさか・・・
- 500 名前:メロン名無しさん 投稿日:02/10/11 01:16 ID:???
- 「見てた・・・のか?」
俺の質問に一瞬彼女達は凍っていたが、暫くして・・・
「見た!」
「ごめん、見た」
「見たで〜」
「あ、あのっ!ごめんなさい!」
「・・・見た」
と、全員が見たらしい。
「全く、彼氏のいる奴はいいですなあ〜、ねえ?暦さん?」
「ああ、同感だ・・・アツイねえ、お・二・人・さん!」
「神楽ちゃんあついな〜、火傷しそうやで〜」
「う、うるさいなっ!今日はいいんだよ、今日は!!」
からかう皆に反論する神楽・・・その顔は確かに赤かったけがどこか嬉しそうにも見えた。
「ああもう!思い出したらイライラしてきた!みんな!!今日は歌うぞ!!」
「お〜っ!!」
水原の呼びかけに、皆は賛成した。
下駄箱に向かっていく面々・・・やはり今まで通り、色んな他愛も無い話をしながら。
ぼんやりと彼女達を見ていた俺に気付いた神楽が戻ってきて俺の手を握る。
「行こう!」
「・・・ああ!」
俺はしっかりと、だけど優しく神楽の手を握り返す。
・・・今日で俺たちはこの学校を卒業する。
でも、それは決して別れるために卒業するのではない。
又会うために、そしていつまでもずっと友達でいられるために卒業するのだ。
離れていても、遭えなくても、ずっと・・・ずっと友達でいられるために。
廊下には、彼女達の声が楽しそうに響いていた。
〜Fin〜