- 776 名前:『HOMI』《1》 投稿日:2003/12/08(月) 05:31
ID:???
- 「よみ、大丈夫か? 」
な、なんだよとも。水原暦、よみと呼ばれた眼鏡をかけたロングヘアーの女子高生は問
い返す。放課後の風が二人の肌と空っぽの教室をするりと撫ぜた。
「まじめな人間ほど、そういうのにはまりやすいってお父さんいってたよ。超能力なんて」
「いや、まあー聞きなさい、滝野智君」
窓の外からは、走ったり号令をかけたりと運動部の練習活動が聞こえてくる。受験が近
づいてきた3年生は授業が終わればさっさと予備校に行くか、特別課外授業にでるかのど
ちらかで、教室でのんきしていたりはしないものだ。
暖房器具の消えた教室は、そろそろ冷えてくる頃。受験という試練に焦りつつも、何と
なく帰りたくない二人以外には誰もいない。
「いや、半信半疑だったけど、私にもあったらしいんだ、超能力」
へーぇ。心配そうなともの声。校内暴走馬鹿の女にそんな心配されたくない。
「よみ、あんた他の人に、そんなこと言ってないよね」
「おまえ、私のことバカにしてるのか? 」
「いや」
少なくともよみにそんな力があると思えん。
きっぱり。
「ふ〜ん、じゃちょっと実験してみようか」
鋭い初冬の光に眼鏡は鏡面反射して、よみの見下すような視線を瞬間さえぎった。
「もしともが、超能力ってあるんだって思ったら。今日マグネ奢りな」
「よーっし、受けてたってやる」
ガンバレー! ファイトー。
不敵に笑う二人だけの教室に、運動場の喧騒が響く。
ともはよみの机の間近ににじる。しなやかな娘の身体に少年の顔つき。
よみは鞄の奥をごそごそ探る。大人びた雰囲気はとたんに幼くなる。
椅子をひく音、がこんがこん。ぴたりと止まって、静寂。
いくぞーっ!!
サッカーボールが、高く高く上がった。
- 777 名前:『HOMI』《2》 投稿日:2003/12/08(月) 05:32
ID:???
- 《2》
「なーんだ、手品か」
トランプを取り出したよみに、とものホッとした笑顔。
「勉強しすぎでどうにかなったのかと心配した」
「バカか。ともじゃあるまいし」
うんうん、ちょっとほっとした。そんな腐れ縁の態度に、よみは少しむっとする。
「それに、これは手品じゃない。超能力をトランプというありふれた道具をつかって実験
してみせるだけだ」
ランチマットを机にしいて、赤いトランプの口を開ける。自転車に乗った天使の印刷さ
れたカード。バイシクルと呼ばれるトランプ。しげしげ見つめてとも。
「でも、これ、手品師のトランプだよね。あのヒゲパワーの人とかがつかってる」
黙殺。
白く細い指が箱から中身を抜き出した。両親指で丁寧に、揉みだすようにひろげられる
半月形。いや、これが半月ならこの月のクレーターはかなり深いのだ。かろうじて、幾つ
かの数字や絵札の姿が見え隠れ。よみ、しばし緊張す。
「タネも仕掛けもない、トランプです」
「ふーん。でもそういわれると、かえって嘘くせー」
いいからこの中から、好きなの一枚指させ!
よみは手の中にまとめたトランプをひっくり返し、再び開いていく、ぎこぎこ。
「う〜ん」
うなると、ともの指がそのぎこちないブリッジの頂点で少し泳いで、何か思いついたよ
うに左手親指に一番近いトランプをひこうとする。
ふっ、バーカ。
心の中で読みはほくそえむ。
どれを取っても君はもう私の術中にあるのだよ。
「じゃ、これ! 」
指差すトランプを、取りやすいように押し出してやる。思惑通りつまみ出す、とも。
「はい、ひいたよ。えっと、ハートのA」
よみの三半規管が一瞬ねじれた。
- 778 名前:『HOMI』《3》 投稿日:2003/12/08(月) 05:33
ID:???
- 「……んでだよ」
「へ? 」
「なんで言っちゃうんだよ! 」
「え? だってよみ、好きなの選べって言っただけじゃん」
「おまえさ、普通この流れだったら、ひいたトランプをみないで私が当てる、とかだろ?
お前が言っちゃったらあてられないじゃん!! 」
「ごめーん」てへ。笑うとも。
――思ってねえ。こいつ悪いなんて欠片も思っちゃねえ。よみの身体が小刻みに震える。
よみ、それは透視なの? ああ透視だ! じゃもう一回やってよ。ああ、やってやる!!
売り言葉に買い言葉。このトランプは再演厳禁の仕掛け。それなのによみは、またぎこち
ない半円を作ってしまう。いつのまにか、トランプにおちる指の影が濃く長い。
「ほら、一枚ひいて」
「おおっ!! 」
心底驚いたような声のともに、凶悪な視線をむける、よみ。こめかみの青い筋。
何でか?
ともは賢明にも理解する。
「ん、んーん、なんでもないよ」
でもすごい確率だ。
ともの呟きに、よみは怒鳴らないよう眉間に力をこめた。
もう止める。え? どーしてぇ? おまえわかってやってるだろ、それ。
「……? 」
「そんな不思議そうな顔して見るな!! 」
まあいい。ここまできたら毒食らわば皿まで。
「さあ、見て、覚えて、元の位置に戻してください」
「別の場所でもいい? 」
「別の場所でも結構ですよ」
「ところでさ」
「はい」
「何でいきなり敬語なの? 」
うるさい、とっとと中に入れろ!!
- 779 名前:『HOMI』《4》 投稿日:2003/12/08(月) 05:34
ID:???
- 深呼吸三回。
落ち着きを取り戻したよみは、トランプの束をシャフルする。
「さあ、このカードをよく混ぜます」
「トランプじゃないの? 」
「……トランプをよく混ぜます」
これであなたの覚えたトランプは、どこへいったかわかりません。
厚手のランチマットに裏返された一直線のトランプの帯が出現する。これをスプレッド
と言うらしい。よみの気に入っている、唯一間違いなく出来る、技法なのだ。この端のト
ランプをゆっくり持ち上げていけば、スプレッドがずらーっと反転する。帯の柄が変わる。
「おおっ、すごいぞ!! 」
「そ、そうか? 」マジ驚きするともに、思わずよみの顔がほころぶ。
「なんか本当の手品師みたいだ」
「手品じゃねえ! 」
ほら、この中にあなたの覚えたものは、あ、り、ま、す、か?
「ありません」
瞬答。
「……ちゃんと探せ」
ともは机の上に目をおとす。ずらーっと並んだトランプ。
「ない」ぴょこん、と瞳がよみの顔を見つめなおす。
多分。
「多分ってなんだよ」
中指で、よみは眼鏡をかけなおす。そのまま手を下ろして、トランプの帯を再び伏せる。
ふーっ、まあいいや。では今からお呪いをかけます。超能力なのにお呪い? いいから
黙ってろ。
「はっ! 」手のひらをかざして気合一閃。それから一枚トランプをつまみ出して。
「あなたの選んだトランプはこれですね」
「おお、すごい、よみがまたハートのAひいた!! 」
「ははは、驚くのはこれだけじゃありません」
勝ち誇ったよみの三半規管が、またグニャっとゆがんだ。
- 780 名前:『あ!』 投稿日:2003/12/08(月) 05:35 ID:???
- 「なにすんだよおまえ!! 人のカードに触るなっ!! 」
ネコが毛玉に飛びつくように、ともはトランプをひっくり返す。
「へへへ、チョーサ、調査!! わあ、なにこのトランプ、みんなハートのAになってる」
「馬鹿、おまえ、それが……最後の、オチ、なのに」
「へー、超能力ってオチがあるんだー。だっせー、よみ、だっせー」
「水平チョーップ!」
ともと机のトランプが、夕暮れに染まった教室の宙にきらきら舞った。
「本当は、ひいてきたAの魔法で、全部のトランプがAになる予定だったんだ」
落ちたトランプを拾いながらよみは口にする。
「でもそれ、透視じゃないじゃん」
教室の隅に落ちた数枚を拾ってともがいう。むかっとしたが、返す言葉がない。その通
りである。
「よみさー、なんで手品なんかしてるの? 」
「もうすぐクリスマスだろ? ちよちゃん家でクリスマスパーティやるって、だから」
余興にでもと思って。じゃ、鳩出してよ、鳩。出ねーよ!!
ん、と突き出されたトランプをともから受け取って、よみは自分の拾った分と一緒に箱
に収める。指先のほこりをスカートで払った。
「ねえよみ」
「ん? 」
「本当に超能力、やってみない」
そんなもん、本当にあるのか? ん、ちょっと思いついてさ、テレパシー。
「クリスマスには間に合わないかもしれないけれど」
海岸に立っているような錯覚すらする放射状雲は窓の外でちりぢりに。その切れ目から
見える空はフラミンゴの色で、夜が来る前にその羽を休めている。
「テレパシー? 」と問いかけるよみ。
「テレパシー」こくり、うなずくとも。
ラスト、行くぞー。はい!! 運動部の、もう一がんばり。
フラミンゴの胸元を飛行機雲が一条。
遠くごーっと風を撒く音。
- 781 名前:『HOMI』《5》 投稿日:2003/12/08(月) 05:36
ID:???
- 「触ってるだけでさ、相手の考えていることがわかるってやつ、この前テレビでタネ明か
ししてた」
「とも、やりかたしってるのか? 」
「んー、お互いに手をつないで、その感触を敏感に感じ取るってらしいんだけど」
詳しいやり方は全然。ともが肩をすくめると、制服の胸元にゆるいくぼみが出来た。
「じゃあ駄目じゃないか」
「いやいや、よみ君。人間はどこでものを考える? 」
「脳だろ? 」
「そこに近いところだったら出来そうな気がしないかね? 」
「額か! 」
「うん、もしかしたら何を考えてるのかぼんやりわかるかもしれん」
確かに多少はわかるかもしれない。そんな気がする。お互いの目に、理解の色が浮かぶ。
制服の優しいなでしこ色が、ざくろの朱に染まっていく。一際大きい陸上部の掛け声。
「うむ、だとしたら、五感を出来るだけ開放した方がいいかもしれないな」
「どうして? 」
「最近本で読んだんだが、人間の身体にはボディイメージと呼ばれるものがあって、自分
の身体と別の物の境を無意識に区切って感じているらしい」
閉じられた部分を全部開放して、ボディイメージを狂わせれば、あるいは……。
「わかったぞ、よみ! ボディイメージの区切りが無くなって、他人の身体も自分の身体
と錯覚するかもしれないってことだな!! 」
そうすれば、他人の脳も自分の脳と錯覚する可能性が……。
「あくまで可能性だがな」
「さすがよみ! 」
視覚情報は思ったより境界を定めやすい。とすれば目を閉じて集中すればどうだろう。
「しかもあたしとおまえは幼馴染、ある意味兄弟より深い仲といえよう! いけるかも
だ!! 」
眉をしかめるよみ。……それ考えたらちょっと難しいような。
「いいからいいから、実験してみよー」
練習終了の掛け声がところどころで起こり拡散する。トマトの蕩けたような夕日が、夜
に圧搾されていく。気の早い家々に、明かりが灯りだした。
- 782 名前:『HOMI』《6》 投稿日:2003/12/08(月) 05:37
ID:???
- お互い向き合い見つめ合う。変な気持ち。
よみ、もっと近くに。ともこそ。
上履きが、数ミリずつ歩み寄る。床のタイルを裸足で踏んでいるみたい。全身が、敏
感になってる。
わかってるか? 相手が、どんな気持ちになってるかわかるかどうかの実験だぞ。
ともこそ、しっかりアンテナ働かせろよ。
「よみ」
まじめな表情を浮かべたともに、どきん、としたよみ。
どうした?
「眼鏡」
あ!
眼鏡を取って、目を細めなくても見えるくらいの位置に、ともがいる。
「ん」
顔を斜めにあげる幼馴染、その自然な仕草にこわばるよみ。
ほら、よみ、緊張しなーい。
見透かしたみたいな声に、またこわばる。
「緊張するなら、挨拶しながらやってみようか」
挨拶?
「おはようとか、こんにちわとか。挨拶の感覚で始めてみたら? 」
じゃ、こんにちはで。
「こんにちわ」
「こんにちは」
考えてみたらこんなふうに挨拶するの、久しぶり。
ひたりとおでこがおでこに触れる。身体を支えるためにともの肩をつかんだ。ともも、
よみの肩を掴む。眼鏡から開放された目をやさしく閉じた。
ひんやりして、固くて、でも柔らかい額の感触。何かが流れ込んでいきそうな錯覚。
「ふぅぅー」
よみは思わず大きく息をする。ともが微かに身じろぎした。
- 783 名前:『HOMI』《7》 投稿日:2003/12/08(月) 05:38
ID:???
- 「ん」
「ん!? 」
鼻の頭にも何かがあたる感触がして、思わず、あっと声が洩れた。
へへー、鼻もつけてみたよ。こうすると、よみをもっと感じるよ。ねえ
よみはあたしをかんじる?
腐れ縁のささやき声に、なぜか鼻の奥がつんとする。涙腺が緩む。
ふー、ふ。
蝋燭の火が決して消えないように息を吹きかけるとしたら、こんな吐息が出るだろう。
ともの呼吸が撫ぜる、よみの唇。
よみの呼吸も撫ぜる、ともの唇。
肉体をつつむ世界拡散していく。
心をくるむ肉体もその心すらも。
吐息の交換、魂の共有。
ともの肩の骨の形が、指先からじんわりと伝わった。
「あ、よみの骨」
……ん。
かすれる返事、喉の奥。
頬を伝う根源の水一筋。
想いを堰き止める結界。
堰き止めた想いの決壊。
オリオンは天空の彼方。
下校する人の声まばら。
黄昏は安らかな静けさ。
いいや深いところで音。
あなたと私の心臓の音。
- 784 名前:『HOMI』《8》 投稿日:2003/12/08(月) 05:39
ID:???
- ねえ、よみ。
ん。
どんな感じ。
ん。
なんかいってよ。
「ぉ…んちは」
なに?
「こん、…は」
言葉にすればあらぬことをいってしまいそうで。
声にすれば、思いがけない告白をしてしまいそうで。
でも、挨拶は気持ちいい。
口にするたび、新しいともに会ってるみたい。
「ふふふ、よみぃ、なに泣いてるの? 」
目を開けると、潤んだともの目があった。深くまばたきするとも。一直線に滑り落ちる
涙。
ばか、目を開けるのは、ルール違反だろ。へへ、ごめんごめん。
ね、よみ。なんだよ。手と手を合わせるのもルール違反か?
「いや、そのほうが、お互いを感じあえるだろ? 有効だ」
じゃ、目を閉じて。
うん、目を閉じる。
はい、こんにちは。
うん、こんにちわ。
右手と左手が重なる。
こんにちは。
指先が触れて交差する。
こんにちは、智。
こんにちわ、こよみ。
指と指がからんで、隙間がぴったりうまっていく、心の真空状態。
おお、マデルブルグの半球よ。
- 785 名前:『HOMI』《9》 投稿日:2003/12/08(月) 05:40
ID:???
- す…。
なに?
…きだよ、とも。
ふふ、知ってる。
ともはどうなの。
す…だよこよみ。
あたしたちかんじあってるね。ああ、かんじあってるな。よみっていいにおい。とも。
なに? おまえは歯磨け。へぇ、そんなに匂うならこうだ。
額に風を感じる。顔が斜めにずれる。
唇に、さっきよりはっきりと意思を込めた、柔らかな吐息を感じる。
ともが私の唇を吸った。
ほんとに、あたし、そんなに臭う?
ぅ、そ、だ、よ、ぉん。
ばか。
舌だけがなめらかに咀嚼して、唇が傷口を慰めるように優しく動く。
こよみが、あたしの唇を吸い返す。
うさぎ罠みたいに、獲物を捕らえて逃がさぬように。
んっ、今度はどちらが発した声だろう。わからない、でもお互いの指先がお互いの手の
甲を強く掴んで、裂けたような爪痕を残す。お臍の裏の奥が、甘く締まった。
六時を告げるチャイム。タイムリミットはシンデレラの二分の一。
廊下が、蛍光灯の白に塗りつぶされる。
「あ」
「あ」
いつのまにかしっかりと抱き合っていた二人が、ゆっくり遠ざかる。ほんの10センチを
遠ざかる。途端、聞き覚えのある駆け足が聞こえて、未練を脱ぎ捨てもう30センチ離れた。
間一髪。しーさーやいびーみ。
- 786 名前:『HOMI』《10》 投稿日:2003/12/08(月) 05:41
ID:???
- 教室を、満面の笑顔が覗き込んだ。
「よーっ、まだ残ってたんだ、一緒にかえろーぜ! 」
「あ、あれえ? 神楽、どうして」
神楽の指先が、教室の明かりをつける。黄昏の残り香は、真昼の光に霧散した。よみが、
再び眼鏡をかける。汗ばんだ額をこっそりぬぐう。
「なんだよ、とも、数学の特別課外授業出てたんだよ。それより、こんな暗い教室で何し
てたんだよ」
「超能力実験」いばるとも。
「おいっ! 」こわばるよみ。
へー、とも、超能力つかえるんだ。うん、今日、それらしいことが出来て、よみと感じ
あったのだ。本当か、それ。本当だ! なー、よみ、あの感じ、超能力だよな。
「……私、ビックマグネバリューね」
え?
「私ビックマグネ、バリューね」
「な、なにいっての!? 」
「だって、とも、超能力の存在を認めたら、マグネ奢るって約束しただろ」
「ええ〜っ、でも超能力は、違うだろ! 」
「なーんだ、やっぱりともは嘘ついてたのか」
「な、神楽! 嘘じゃない、嘘じゃないぞー!! 」
「じゃ、あたしはダブルマグネダブルで」
「なんで神楽までーっ!! 」
「いいじゃないか、ついでだついで」
そこの泣き虫眼鏡、うるさあーい!!
- 787 名前:『HOMI』《11》 投稿日:2003/12/08(月) 05:42
ID:???
- 「それにしても」
神楽は帰り道、二人に尋ねる。
「実験って、どんな実験やったんだ? 」
もう辺りはとても寒い。白い息ほろほろ。深夜のマラソンに出るときは、さすがの神楽
も下着を二枚着る。寒さに思わず手を擦り合わせる。
ふふふ、挨拶がコツなのだよ。おお、で、どんなふうにつかうんだ? う〜ん、口で説
明するのは難しいな、実際やってみた方が。
とも。
「え? 」
いきなり呼ばれて、ともはよみの顔を見る。神楽も思わずよみを見る。
「あれ、封印な」
「えーっ」
「封印、な」
「わかったよ。でも、手、つなぐだけならいいだろ」
よみが頭をばりばりかいた。神楽は何となく、じっと手を見る、冷えた我が手を。
「好きにしろ」
「よし、神楽、手を出せ」
「お、おう」
戸惑いながら手を出すと、ともの手がきゅっと握り締めた。
「んん、さっきの想いのエネルギーだああああ」
「ばか」
よみがマフラーに顔をうずめる。あれじゃあまるで照れてるみたいだ。
握ったともの手は、なぜかまだ温かくて。
それにしっとり汗ばんでいて。
ともとのスキンシップは慣れているのに。
動悸が激しくなって
謎の恥かしさに真っ赤になった。
了