536 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2003/02/10(月) 17:59 ID:???
木枯らしが窓を震わせながら街を吹き抜けていく。
真冬の深夜過ぎ、暦の部屋からはまだ灯りが漏れていた。
暦は離れの勉強部屋で参考書に向かっていた。
既に他の家族は寝静まっており、暦以外の部屋は灯りが消えている。
小さなボリュームで流れていたラジオのDJがお別れの挨拶をしてCMが始まったところで、
暦はふとレポート用紙を走らせていたペンを止める。
「ふーあー」
暦は大きく伸びをすると、椅子の背もたれに寄りかかったまま天井をぼんやりと見つめる。
試験期間に入り、登下校以外に智と一緒に過ごす時間が無くなった。
暦は仰け反ったまま目をつぶり、両手で自分をぎゅっと抱きしめる。
思い浮かべるのは胸元にぴとっと貼りついてにっこりと見上げてくる智のまっすぐな視線。
智が抱きついてきたときに癖でいつもそうするように、自分の手で背中を小さくかりかりと掻いてみる。
それに答えて暦も両手を智の背中に回し、二人の胸が平らになるほどぎゅっと抱き寄せる、視線をしっかりと受け止めながら。
智はその2つの目をゆっくりと閉じて、そして背伸びして…くちびるを…。

537 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2003/02/10(月) 18:00 ID:???
「コツコツ」
と窓を叩く音に妄想は中断された。
「(おーい暦ー。起きてるんだろー)」
慌てて椅子から転げ落ちそうになりながら暦は窓辺へと走った。
カーテンを開けると真っ赤な鼻をした智がそこにいた。
「(おい、どうしたんだ、こんな時間に。お前、勉強は?なんでもっと厚着してこなかったんだ。いつからそこに立ってたんだよ)」
暦は窓を開けながらついつい大声になってしまいそうになるところを押さえて矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「まぁまぁ、とりあえず中に入れろよ。おー、寒っ」
智は窓枠につかまると壁を蹴らないように両腕で器用に身体を持ち上げ、靴を脱ぎながら背中から滑り込むように暦の部屋に入った。
「ふー、あったけー」
呆れて立ち尽くす暦の前で智は脱いだ靴をベッドの下に隠し、ストーブへあたりにいく。
「こんな時間にどうしたんだよ」
暦は智の背後まで駆け寄り、いらいらした口調で再度質問を繰り返す。
「ちょっとこの問題に答えて欲しいんだけど」
くるっと振り返った智がまだ寒さで頬が赤くなっている顔をぐいっと近付けて問い掛ける。
「な、なんだよ。試験勉強か?」
「自分の鼻を触ってください」
「はあ?」

538 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2003/02/10(月) 18:01 ID:???
おかしいと思いながらも問題の続きが気になる暦は素直に自分の鼻をつまむ。
「暦は鼻をつまむ人なのね、了解了解。もういいよ。では次の問題、ハチミツ、オクラ、コショウを身近な人に例えてください」
「なんだよ、それ。ハチミツにオクラにコショウ?」
智は号令を待つ犬のように嬉しそうな顔で暦の答えを待っている。
「オクラってあれか。あんまり好きじゃないな。特にイメージできないよ。まぁ、コショウは木村、ハチミツは…」
「ハチミツは?」
智がさらに顔を近付けて暦の答えを待ち受ける。ごくりとつばを飲む音まで聴こえてきそうだ。
「ハチミツは、と、智かな」
智の熱心な目線に晒された暦は顔を赤めて視線をそらしながら答えた。
答えを聞いた智はぽぅと音がしそうなほど頬を真っ赤に変えて、喜んで部屋中を飛び回る。
「わーいわーい」
ひとしきりそうした後で智は暦に抱きついて
「私もね、自分の鼻を触れって言われたらぎゅってつまむ人で、ハチミツを身近な人で例えると暦なんだ」
「…はぁ」
暦は未だに事態が掴めていない。完全に智に翻弄されっぱなしだ。
「ちゅ」
抱きついたまま唐突に智は暦にくちびるを合わせる。
「えっ、えっ」

539 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2003/02/10(月) 18:03 ID:???
暦が驚いている間に智は二度、三度とキスを繰り返す。
智の突然の訪問と奇妙な行動に暦は完全にペースを乱され、主導権を奪われっぱなしだ。
もう諦めて素直に智のさせたいようにさせてしまっている。
ひとしきりキスを降らせた後でやっと智は暦に詳しく説明してないことに気付いたようだった。
「あ、えっとね、鼻を触ってと言われてつまむ人は誰かとキスしたがっている証拠なんだって」
狐につままれたような顔をしている暦に智は嬉々として説明を続ける。
「で、ハチミツはキスしたい人の象徴なの。つまり、私と暦は相思相愛、相性ピッタリ。ドゥーユーアンダスタン?」
「はぁ?なんだよ、それ。試験と関係ないじゃないか」
「まぁまぁ、最初から私は試験勉強なんて言ってないよ。そ、れ、よ、り…」
突然智の表情が怪しい笑みに変わる。
「私が思うにチミはシンソーシンリ的に少しヨッキュウがフマンしてるんじゃないかと思うんだがね」
「な、な、なんだよ。なんだよ、それ」
智は暦に回した手で背中をかりかりと小さく掻いた。
「私は見てしまったのだよ、暦クン。チミが深夜の学習机でよからぬ妄想に耽っているところを」
「よ、よからぬ妄想ってなんだよ。こっ、こら、やめ。いつから見てたんだよ」
抱きついて背中をまさぐる智を慌てて引き剥がそうとするがしっかりと背中に回された腕は容易には外れない。
「ははーん、図星ですな。まぁまぁここはオネエサンに任せなさいって」
「はなせー」
「こらこら、大声出すと家族の人に聞こえちゃうよ」
そう言いながら智は暦の口を自分のくちびるで無理矢理塞ぎ
「うぶぅ」
そのまま二人の胸が平らになるように強く引き寄せると、暦の大きな身体を折り畳むようにベッドへと押し倒した。

540 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2003/02/10(月) 18:04 ID:???
後日談

「暦ー、テストどうだった?」
「ほれ」
智に答案用紙を突き付けるように渡す。
点数を見て智は表情を凍らせた。
「なんだよー、なんでこんないい点取れるんだよー」
「いやー、すっきりしたからあの後勉強に身が入ったんだ」
「すっきりしたからって…ずるいよー」
「なんで?だってそうしたのはお前じゃないか」
「…。」
「帰って勉強しなかったのか」
「…すぐ寝た。」
「それじゃあ、しょうがない」
「暦のバカー」
「バカはお前だ」