- 546 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs
投稿日:2003/02/14(金) 19:16 ID:???
- キーンコーンカーンコーン
午前の授業もつつがなく終わり、いつもはまた違った喧騒に包まれるバレンタイン・デーの昼休み。
教室や廊下、ベランダや中庭を見渡せばそこかしこにチョコをやりとりする男女の姿が見つけられる。
そんな風景を横目で観察しながら私はいつもと同じ様に弁当の包みを広げる。
今日のこの時のために朝早くから準備したお弁当の蓋を開けると同時に背後から
「おー、今日も暦は凝った弁当作ってますなぁー」
と智が私を上から押しつぶすように背中に乗っかかり元気な声をあげる。
「お、重い〜。どけ〜」
私が箸と弁当箱の蓋を持ったままじたばたと嫌がるポーズをとると、智が調子に乗って後頭部に胸を押し付けてくる。
「ほほー、卵焼きにコロッケに…ほうれん草かな」
言いながら智が手を伸ばしてきて
「いただきっ」
と卵焼きをつまんで自分の口に放り込む。
「あ」
「(バレンタイン・デーなんだからこれくらいいいじゃんかよ)…ケチぃ」
最後の部分以外は周りに聞こえないように小さな早口で囁く。
「もぐもぐもぐ、ほほー、これはこれは」
人の頭の上で悠長に卵焼きを味わうつもりらしいが
「………ぶほっ」
実際に吐き出しはしなかったがかなりショックだったらしい。
びっくりして私の頭上からずり落ちて床にしりもちをついている。
「なんだよ、これー」
「なんだよって、これは厚焼き玉子のチョコレート巻き」
目を真ん丸くしている智に弁当箱を突き出して説明を続ける。
「こっちは板チョコ入りコロッケで、こっちはほうれん草のチョコレートソースのおひたし」
まだ智は事態が掴めていないようで放心したような顔をしたままだ。
私が箸でつまんでおかずを口に入れてやると表情を変えずに口を動かす。
「(バレンタイン・デーだからな)」
小さな声でそういって弁当箱ごと智に手渡し、箸を握らせてやった。
「これ、私のために?」
智が弁当と箸を持って立ち上がる。
「ああ、残さず食べてくれよ」
私は智のために空いている椅子を引き寄せて私の机にくっつけてやった。
- 547 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs
投稿日:2003/02/14(金) 19:16 ID:???
- 智は新たなおかずを口にするたびに見せる驚きと愛想笑いの入り混じった微妙な表情を見せる。
私がだまって観察していると
「ところで暦、自分の分のお弁当は?」
と訊ねてきた。
「ふっ、私の分はいつものお弁当がある」
私はかばんからもうひとつのお弁当箱を取り出した。
「えー、なんでー。私もそっちがいいー」
「でも激辛だぞ」
コロッケを箸で割って真っ赤な断面を見せてやる。
「………うわーん」
「そうかそうか、泣くほど嬉しいか」
かばんの中に入っているもう一つの普通のお弁当と手作りチョコはもうちょっと遊んでから出してやる事にしよう。