- 622 名前:天の川 投稿日:2003/05/29(木) 16:40 ID:???
- 「頼む!このとおり!お願いだ!」
智が珍しく、本当に珍しく、神楽と大阪に頭を下げている。二人は「どうしたものか」
とでもいいたげな表情で顔を見合わせている。
「ったく、なにを言うかと思えば、
『よみとケンカして、こんどの期末テストの点数がよみより高くなかったら
なんでも好きなこと一つ聞くっていっちゃった』だぁ?それと私達に頭を下げるのと、どういう関係がある?」
神楽は冷たい目で智を睨んだ。
「いや、おまえらがよみより点数高くてもいいんだよ。
頼む!一緒に勉強してくれ!一人より三人のほうが、可能性あるだろ?な?」
「フン、私達を巻き込まないでくれよ。勉強はもちろんするけど、お前のためにじゃないからな」
神楽は腕を組んだまま教室から出て行ってしまった。
歩のことを、遠くからちよが呼んでいる。
「あ、智ちゃん、悪いわ、ちよちゃんがよんどるんや」
歩は遠くで手招きしているちよの元へと走っていった。
智はただ一人、教室の後ろでぽつんとたたずんでいた。
- 623 名前:天の川 投稿日:2003/05/29(木) 16:43 ID:???
- 自分の部屋で、智はよみとのやり取りをもう一度思い出す
「智、あんた本当に勉強しないと留年しかねないよ?
ま、いまさら勉強しても無理かもしれないけど、あんたは馬鹿だし・・・・・
前の期末じゃ、私の点数の半分もとれなかったしね」
「馬鹿」のところだけ、よみは力をこめていった。
「あ、いったな!わかった!じゃあ今度の期末、私がよみより点数低かったら
なんでも好きなこと一つ聞いてあげるよ!私は馬鹿じゃないんだからね!」
今思い返すと、なんと馬鹿なことをしたのだろう、と智も自分でそう思った。
しかし前言撤回はできない。よみよりもいい点数を取るしかないのだ。
「くそ!こうなったら、ちゃんと勉強してよみを見返してやる!」
智は額に「必勝」とかかれたはちまきを結び、シャープペンシルを持って
教科書とノートが置いてある机に向かった。しかし基礎さえ満足にできない智は、数十分たっただけでお菓子をほおばりながらベッドに寝転んでいた。
不意に、智のお菓子を口に運んでいた手が止まった。
―――だめだ!こんなことしてる場合じゃないんだ!―――
普段、これでもかというくらい勉強嫌いな智をここまで勉強に向かわせたもの、それは意地であった。
暦に負けたくないという一心で、智はここまで嫌いな勉強をしているのだった。
- 624 名前:天の川 投稿日:2003/05/29(木) 16:45 ID:???
- テスト当日。
教室では教科書を持った生徒が何人もいた。もちろん智もその例外ではない。いつもの智ではないからだ。
ゆかりがドアを開けて入ってきた。遅刻はしなかったらしい。
ホームルームが終わり、ついにテストが始まった。シャープペンシルを持って、智は答案用紙に向かった。
「―――・・・どうだった?」
暦が智に向かっていった。
「ばっちり。絶対あんたより点数高いもんね!」
「ありえないね!」
二人はかれこれ一週間以上ぶりの口げんかをした。
「はい!テストを返すわよ!」
数日後、ゆかりが紙の束を持って教室に入ってくる。テストの答案と、得点表だ。
智の名前が呼ばれ、ついで暦の名前も呼ばれた。
「いくぞ!いっせーのーで!」
智が掛け声をかけ、二人は得点表を見せ合った。
智―――5教科総合329点。
暦―――5教科総合427点。
智の頬を冷たい汗が伝う。
- 625 名前:天の川 投稿日:2003/05/29(木) 16:46 ID:???
- 「・・・・私の勝ちのようだ。約束は忘れてないだろうな?」
「・・・」
智は黙っていた。
ガチャ。
暦は自分の部屋のドアを開け、智を連れて入った。
「んで、なにさ?何でも聞いてあげるよ!」
智は少し怒った口調でいった。
暦は机の中から何かを取り出した。赤いリボンでラッピングされている、
縦横三センチほどの箱だ。
「・・・・・約束は守れよ。好きな一つを聞くっていうな。これを受け取れ。」
暦は智のほうに、箱を乗せた手を突き出す。
「・・・え?でも・・・」
「いいから受け取れ!約束は守るんだろ?」
智は何が起こったのかをまだ理解できていないようで、不思議な表情をしながら箱を受け取る。
暦は腕を組んだまま黙っている。
「・・・あけてみろ」
智は言われるがままに、箱のリボンをほどき、紙をはがした。中からでてきたのは、
熊のキーホルダーだった。
- 626 名前:天の川 投稿日:2003/05/29(木) 16:49 ID:???
- 「・・・・・え?なに・・・これ?」
智のセリフに、暦が叫んだ。
「この馬鹿!明日は何の日かわかってんのか!?」
暦はカレンダーを指差した。
智は少し考えていたが、やがて大声を上げた。
「あ・・・・明日・・・私の誕生日じゃん!」
「自分の誕生日くらい忘れるなよ!それは私からのプレゼントだよ!
お前は自分が今までと比べてどんだけいい点取ったのか解らないのか!?大阪が総合で285点!
神楽が総合で280点なんだぞ!?お前は私がああでも言わないと勉強しないからな・・・
疲れたよ。私ももう一度、高校に受かったときくらいの、
あんたの実力って言うやつを見たくなったのさ」
智は今までの自分がとった点数を思い出した。
暦の顔は、とても優しい笑顔になっている。
「よみ・・・」
「ん?なんだ?」
「ありがとう!」
智は、暦に抱きついた。二人の顔は、とても幸せそうな顔をしていた。