390 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2002/12/12(木) 02:28 ID:???
「よみー、ハンカチ貸してー」
ちよちゃんと大阪と一緒にトイレに行っていたともが両手をぶらぶらさせながら教室に戻ってきた。
「お前、また忘れたのか。」
口ではそう言いながら、困った時に必ず私を頼ってくれる嬉しさを顔に出さないようにするのにはいつも苦労する。
おっと確か今日のハンカチは…
「…しょうがないなぁ、ほら」
スカートのポケットから白いレースの縁取りの少女趣味全開の白いハンカチを取り出して渡す。
「あ…これ」
白いハンカチの角には白い糸でMagical Landとに刺繍がしてある。
「使い終わったら早く返せよ、大事な宝物なんだ」
          ◇          ◇          ◇
「暦、お友達がお見舞いに来てるわよ」
重いまぶたを持ち上げると、西日にセピア色に染められた天井がぼやけた視界に入ってくる。
(きっとともだ。マジカルランドから帰ってきたんだ)
反射的に体を起こそうとしたがまだ頭がガンガンして無理だ。鼻の奥も痛い。
眼鏡をかけようとしてまぶたをこすり、泣き腫らしてそのまま寝入ったことを思い出した。
とものヤツがあんな電話してこなきゃこんなしょっぱい鼻水はすすらなくて済んだんだ。
一度は手にとった眼鏡を閉じたマジカルランドのガイドブックの上に置く。
母に腫れた目を見られないように壁の方に寝返りを打ってから
「………会いたくない」
とすねた声で返事をする。
濡れた枕カバーが頬に貼りつく。わびしさが何倍にもなったように感じられた。
わざと聞こえるようにふぅと溜息をついてから母は部屋に入ってきた。
「ともちゃんよ、会わなくていいの?」
母はベッドの縁に静かに腰を下ろし、めくれた布団を肩に掛け直してくれながら静かに問い掛けてくる。
私はぎゅっと布団をかきあわせ、身体を丸めて母の言葉を拒絶する。
熱のせいにして、すねて甘えてバカだな、私。もう子供じゃないんだから。
諦めた母が立ち上がり際に布団ごしに肩をぽんぽんと叩いてから部屋を出ていった。
しばらくして廊下の先からともと母の会話する声が聞こえてきた。
いつもと変わらず明るく元気なともの声を耳にすると、思わずまたうるっと来てしまい枕に顔を埋める。
もし、今ともが母の静止をふりきって無理矢理部屋まであがってきたらどうしよう。

391 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2002/12/12(木) 02:29 ID:???
でも、私の予感は外れ、ドアはぎぃと音をたて、ともは元気な声でお別れの挨拶を残して帰っていってしまった。
ばたんとドアが閉まり、またこの家はともを始めとするあらゆる外界から切り離されて静寂に包まれる。
「………暦」
母は静かにノックして部屋に入ってくると小さな紙包みを差し出した。
「おみやげですって。探すのに苦労したそうよ」
気になって包装を解くと、小さな包みの中からは小さく折りたたまれた白いハンカチが出てきた。
これって、これって、私がガイドブックに載ってた写真を見て欲しがってたヤツじゃないか。
あんな小さい写真のはじっこに…商品名すら載ってなかったのに。
「そんなの欲しがるヤツいないよー」
ってバカにしてたともが…探してきてくれたんだ、私のために。
ハンカチを握り締めると、ベッドから飛び起きて、母を振り切り寝巻きのままで玄関を飛び出す。右を見て左を見る。いた!
小さくなっていくともの背中めがけ、体育の授業中でもお目にかけない全速力で追いかける。
あと50メートル、あと30メートル、10メートル、2メートル。
背中から飛びついてぎゅうっと抱きしめたくなる気持ちを押さえて急ブレーキ。
一度呼吸を整えて、
「ともっ、あの、おみやげありがとう」
突然声をかけられて驚いて振り返ったともは、寝巻きのままの私を見てさらに驚いて口が半開きだ。
「これ、私が欲しがってたヤツだよな。わざわざ探してきてくれたんだ。ありがとう」
目をまん丸くしてバカ正直に赤くなったともは照れ隠しにか頭をかきながら
「いやぁ、なんかやっぱりよみがいないとつまんなくてさぁ」
どきっ!
いや、これは素で言ってるんだよな。どうせいじめる相手がいなくて、とかそういう意味に決まってる。
「そうそう、探すの苦労したんだぜ。レースのハンカチって言ったんじゃ通用しなくてさ」
ともは得意そうに鼻の下を人差し指でこすりながら
「ちよちゃんや榊さんにも相談しないで一人で探したんだぜ。」
とふんぞりかえった。
「こんなことになるならよみからガイドブック借りておけばよかったよ」
一転して肩を落としてしょげたポーズを取る。
おいおい、こんなことになるなんて私だって予想してなかったよ。
でも、よかった。
「今度は一緒に行こうな、な。今度は熱出してダウンしたっておみやげはなしだぞー」

392 名前:涙のダイエット少女 ◆vEOwCmqs 投稿日:2002/12/12(木) 02:29 ID:???
「よみ、これだけどさ、マジカルランドのスタッフの人が言ってたんだけどさ」
ともはぱたぱたとハンカチで手をパフする。
上品なハンカチなのでなかなかうまく水分が吸収されないようだ。
「うん?」
私は返してもらったハンカチをポケットにしまいながらともを見上げる。
「これ、眼鏡拭きなんだってよ」
「!!!。じゃあ、手ぇ拭くなよー」