- 601 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:37 ID:???
- Another Side Story Part 1(From TV Version):誕生日の贈り物
■「誕生日の贈り物」
1.「ネコといっしょ」
ある天気のよい土曜日。
(明日はちよちゃんの誕生日会。友達の誕生日に呼ばれるなんて小学生の時以来だ。
何かちよちゃんに合った、可愛い贈り物をしたいな…)
キーホルダー、マグカップ、縫いぐるみ。
榊はいつもの散歩コースを外れ、商店街をウィンドウショッピングがてらに歩きながら、色々と考えてみた。
でも何か自分の感覚をくすぐり、ピン、とくるものがない。
彼女が次に訪れたのは、少々大きめの本屋だった。新刊、月刊誌のコーナーを横切り、専門誌のコーナーへ足を運ぶ。
そこにはさまざまな専門書がずらりと並んでいた。
そこで彼女の目に留まったのは、「ネコといっしょ」という本だった。
タイトルから想像するに、可愛い猫さんたちの写真がいっぱい載っているに違いない。
表紙にも可愛い猫の絵が描いてあった。
「わー、可愛い〜。ありがとう、榊さん!」
本を受け取って喜ぶちよちゃんの姿を想像し、ちょっと顔を赤らめ、
恥ずかしさのあまり(というよりいつものクセで)両手で顔を隠してしまう榊。
彼女は、喜ぶちよちゃんの姿を頭に思い浮かべながら、「ネコといっしょ」の本があった場所に手を伸ばした。
その一方で「自分のような可愛くない人間があんな本を買うなんて」と、他人から想像されるのが恥ずかしいといった思いから、
よく確かめもせず、すぐにその本を脇に抱え込み、レジにも裏返して出した。
そして小さな声で赤らめた顔のまま、「…誕生日の贈り物なので、きれいに包んでください…」とお願いする。
レジのお姉さんが一瞬「?」という表情を見せたが、榊はそれを「こんな可愛い内容の本を…?」と思ったのかと誤解した。
- 602 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:37 ID:???
- 2.二冊の本
誕生日当日。智、暦、大阪、榊、そして今回の誕生日会の主賓のちよ。
美浜邸にはいつものメンバーが勢ぞろいした。それぞれがちよに、誕生日のプレゼントを渡していく。
智は受け狙いをして見事に外し、少々ふくれっつら。暦は榊と同じ本をプレゼントした。大阪は大きな黄色い猫の縫いぐるみ。
夢で見た、ちよのお父さんと瓜二つなのでびっくりした榊は思わず「これはちよちゃんのお父さんだ…」ともらす。
「なんかようわからへんけど、榊ちゃんって結構メンデルなところあるんやなー」
「…大阪、それは『メルヘン』じゃないのか?」
「そうともいうな〜」
暦のツッコミも大阪のボケも相変わらずだった。
ちよの手元の、暦から渡された本を眺め、「ちょっとかぶっちゃったかな」と思いつつ、
榊は本屋できれいに包装してもらったままの本を手渡す。
「はい、ちよちゃん、これ…」
「ありがとうございますぅ。榊さんも本ですね。わー、なんだろー?開けてもいいですか?」
「うん…」
がさがさ。ちよは小さな手で丁寧にリボンと包装紙を外す。中には確かにプレゼントの本が入っていた。ただし、榊が買おうとしていた「ネコといっしょ」ではなかった。
「たのしいお茶」という題名の本だった。
- 603 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:38 ID:???
- 3.間違い
「お茶…の本、ですか?」
「…!」
榊の頭の中に瞬時にして、そのプレゼントの本を買った時の情景がよみがえって来た。
「ネコといっしょ」の本を見て「いいなぁ」と思い、一瞬想像をめぐらせた。
その後はよく見ずに、そこにあったはずの本に手を伸ばし、確認もせずに…。
レジに出す時も裏返しのままだったし、そうだ、レジのお姉さんが不思議がってたのも…。
「うーん…。まぁ、そういうのもありかな」
「榊ちゃん、私より受け狙いがうまいじゃん!」
「ちよちゃんにはちょっと早すぎる内容かもしれへんなー」
ちょっとだけ気まずい雰囲気。沈黙が場を支配する。
暦と智がそれぞれ場を和ませようと瞬時に思いついたベストの言葉を発し、大阪は本能のおもむくままに反応した。
- 604 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:39 ID:???
- 4.「よろしくね」
「…ま、間違えた…」
榊にはそれをちよに伝えるだけで精一杯だった。そして顔を真っ赤にしたままうつむいてしまう。
智は「やばっ、空気を変えなきゃ」と瞬時に判断し、視界のすみにあった、ある球団のマスコット人形へと話題をそらす。
「ねえねえちよちゃん、ちよちゃんって巨人ファンなの?」
多少オーバー過ぎるくらいの声量で問いかけた智に、意図を感じとったちよも、大げさに
「ええ、そうなんですよー。今年は優勝ですー」
と返す。
「巨人っていつもそうじゃん。今年は阪神だよ!」
「巨人ですぅ!」
そこからはおなじみの、小学生同士の喧嘩のようなやり取りが続いた。
ちよは思わず涙目になってまで反論する。もう演技なのか本気なのか分からない。
そこに榊が、大阪が持ってきた「黄色い猫の縫いぐるみ」を手に、お父さんがいるから大丈夫だと口を挟んでくる。
榊は多少涙目のようにも見えたが、ちよから見て彼女は大丈夫そうだった。
暦はそのやりとりを見て「相変わらずだな」とでもいいたげにため息をつく。そして
(あの様子なら…大丈夫かな、榊…)
と思いながらも念のため、手洗いのために席を立つ。
「ちよちゃん、ちょっと手洗い借りるね。…えーと、どこだっけ?ちょっと案内してくれないかな?」
ちよは「もう知ってるはずなのに…」と不思議がりながらも暦を案内する。
その間も、智は榊に、阪神が今年どれだけ可能性があるかを夢中になって力説していた。
ちよの部屋から多少離れたお手洗い。その手洗いのドアの前で暦はちよにささやいた。
「榊へのフォロー、よろしくね」
- 605 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:39 ID:???
- 5.散歩
「ごちそうさーん!じゃ、ねー」
「ほなら〜」
「それじゃ、また明日学校で…榊は?」
日も暮れ、智、大阪、暦がちよの家を後にする。暦の問いに榊は
「私は…もう少し残ってる」
とだけ答えた。最低限のことしか話さないのは相変わらずだな、と暦は思った。まぁそこが榊らしいところなんだけど。
「そやね〜忠吉さんともう少しいたいんやね〜」
ちよから、榊の家が意外に近いことを聞いていた皆は、榊の返事と大阪のフォローに合点してうなづいた。
暦だけは「頼むね、ちよちゃん」という思いを含めて。
公園の木々が夕日の赤に照らし出されて不思議な雰囲気をかもし出している。榊はちよと忠吉さんと共に散歩をしていた。
ちよが榊に、散歩に付き合って下さいと頼んだのだ。榊は忠吉さんと一緒に散歩が出来て嬉しそうだった。
- 606 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:40 ID:???
- 6.同級生から「友達」へ
「榊さん…」
ふと、何かを思い出したかのような自然なタイミングでちよが榊に話しかけた。
「プレゼントの本のことですけど…気にしないで下さいね」
「…うん」
「間違いは誰にでもあることですから。それに…」
ちよは右手を握り、どん、と自分の胸をたたいて
「榊さんの気持ちはしっかり受け取りました!とっても嬉しいです」
と自信ありげに、榊に向かって答えた。
「でも…いいのか?」
それでも心配な榊が、さらにちよに問いかける。
ちよは榊の思いを胸一杯に受け、その嬉しさを返すのに、やはり自分にとってのこれまでで最高だ、と思えるほどの笑顔を作った。
「いいんです!榊さんは友達ですから! お茶は健康にもいいって話ですし、この際ですから色々勉強してみます!」
「…ありがとう」
多少涙目にしながら、榊は応えた。嬉しさで、それだけで精一杯だった。
「(友達っていいなぁ…)」
榊は、そう思いつつ、ちよの心遣いに、出来る限りの笑みで応えた。
二人の大きな少女と小さな少女の笑みが、夕焼けできれいに彩られ、公園の湖に映し出されていた。
この日を境に、ちよは榊にとって、単に「可愛くて頭のよい小学生の同級生」としてだけではなく、
「心の優しい友達」として位置付けられることになった。
そして榊の高校生活も彼女とのふれあいの中で、少しずつこれまでと装いを異にしていくことになる。
−終わり−
- 607 名前:R.F. ◆uekdll3sCM 投稿日:02/10/27
17:52 ID:???
- 「誕生日の贈り物」外伝
大阪「最近ちよちゃんちへ遊びにいくと、いつも変わったお茶が出るんや〜。
中国のなんとかいう、高級なのとか、滅多に手に入らないお茶の葉を使ったものとかいうてたで〜」
暦「そうだな、急須も本格的なもの使ってたぞ。なんか色々ハマってるみたいだな」
智「しまいにお茶会でも開こうっていうんじゃないのかー? 外で、絨毯みたいの敷いてさー。
しゃかしゃかしゃかとかやっちゃってー。足しびれるからやだなー」
暦「元々お前には無理だっての…ん?どうした榊?」
榊「…本当に勉強してるんだ…」
暦・智「?」
ちよ「あ、みなさんおはようございますー。あのですねー、今週の日曜、皆さん空いてますか?」
暦「んー?私も智も特に用事はないけど?」
榊「私も…ない」
ちよ「今度の日曜に、うちでお茶会開きませんか〜? 本格的なお茶をご披露しますよ〜」
皆「!」
榊「…(ぽっ)」(着物姿のちよを想像している)